病院、薬局、創薬産業・・・医療現場の声を政策に反映するには

医療現場の声を政策に反映させる必要性

経営戦略と政府の政策には、どのような業界であっても多かれ少なかれ関係があります。

現在国会で議論中の補正予算の例でいえば、昨今の国際情勢を踏まえたガソリン代の補助が盛り込まれたことは、多くの運送企業にとって朗報でしょう。この補助金がなければ、輸送費用がかさみ、少なくない運送企業が急激な収入の低下による経営不安に陥っていたことが想像できます。

このように政策の動向次第でビジネス環境は大きく変わりますが、とりわけ医療分野はその傾向が強いです。

サービス業の収益を決定づける要素は

収益=平均客単価(単価)×利用人数-費用

と説明でき、競合他社や技術革新などがそれぞれの要素に影響しますが、医療分野は、この要素の全てに政策が強く影響するからです。

医療分野の特殊な点は、業界の動向次第で、国民の健康状況にダイレクトに影響がある点です。

病院がつぶれれば、地域住民の健康不安は一気に増大しますし、製薬企業の営業停止は、医薬品の不安定な供給を招きます。このように医療に確実にアクセスできないとなると、国民生活に大きな影響が出ます。医療の安定提供の確保のために、様々な規制や医療保険などの予算があるのです。

また病院や薬局、製薬企業の収益の根源は保険料や税金であることを考えると、医療関係の企業や団体には、安定経営と同時に効率的な運営も求められます。一企業、病院、薬局単位でなく、国全体として医療財源を効率的に進めるための試みが必要です。

ところが、病院・薬局関係者や製薬企業の方の話を聞いていると、そのような機運はまだまだ弱いです。政府が決めた新しい政策にいかに早くキャッチアップするかに重きを置いていて、現場の声や新しいアイデアを政策に反映することへの関心は、まださほど高くありません。

経済成長が鈍る中、自動的に経済成長のうまみを配分することはできません。自分たちの権益を守りたいという発想ではなく、時代の要請に沿った権能を発揮するために、現場から制度を変えていく必要があります。病院・薬局関係者や製薬企業の方こそ、政策を変えていく手法を是非学んでほしいのです。

そうでなければ、制度上厳しく規定されている医療関係者の仕事内容を変えることができず、自分たちの経営が悪化するだけでなく、高品質な医療を国民に届け続けることも難しくなります。

政策を皆さんが変える方法を学ぶ前に、まず皆さんが置かれている環境が一般的なサービス業と比べると特殊であることを理解してもらえればと思います。自分達がプレイするゲームのルールを理解しないと、政策は変えることができません。

医療の世界では:コーラがどこの店でも同じ値段

一般的なサービス業の場合、同じカテゴリーの商品でもお店によって値段は違います。レストランのコーラの値段はそれぞれの店で異なります。出されるコーラは一緒でも、その店の雰囲気や料理の味などが総合的に勘案されて値段が設定されています。

特定の期間には特別料金を設定することもあります。忘年会シーズンにおけるカラオケ店の基本料金は普段より高くなります。「そのサービスを利用したい」と考える人が増えるので、普段より高い値段を設定してもそのサービスを利用してくれるからです。

これが医療サービスになると、少し違います。病院や薬局が提供するサービスが同じであればどこでサービスを受けても同じ価格が設定されています。○○を実施したら■円、△種類の薬を調剤したら★円といった具合に、提供したサービスに応じて受け取れる金額が決まっています。繁忙期だからといって、病院が勝手にサービスの値段を変えることはできません。

例えば、2022年度の調剤報酬には以下の記載があります。

調剤基本料(処方箋の受付1回につき) 1 調剤基本料1 42点(※)

https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000907836.pdf

これは薬局に処方箋を持っていくと請求できる費用で、処方箋を薬局に持って行った場合は誰でも原則420円(7割は保険料から出るので、420円の3割分を窓口では支払います)を支払わないといけません。これは、厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)の場で点数が決められています。

※厳密には、どの薬局がどの点数を請求するべきかは、薬局チェーンの規模や病院・クリニックとの関係性の深さで点数は変わりますが、ここではわかりやすく調剤基本料1のみを記載しています。

これは製薬企業の商品である医薬品も同様です。医薬品の値段も、医療サービスの値段と同じように、国が決めるため、どこで買っても、同じ年度であれば、いつ買っても同じ値段です。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

metamorworks/iStock

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年11月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。