1. 1人あたりGDPの推移を見てみよう
前回はドル換算値する際の、為替レート換算と購買力平価換算の違いについて眺めてみました。
購買力平価換算は、明らかにアメリカとの経済格差のある国も、その格差分を補正する効果があるようで、実際の経済水準の比較をする際には注意が必要なようです。
今回は1人あたりGDPについて、具体的に比較してみたいと思います。
まずは、ドル換算値の推移を見比べてみましょう。
図1はOECD各国の1人あたりGDPについて、為替レート換算(左)と購買力平価換算(右)のグラフです。
為替レート換算は為替変動によるアップダウンが大きく非常に見にくいグラフですが、購買力平価換算は全治的に滑らかな推移で見やすいですね。
一方で、為替レート換算では日本はイタリアや韓国よりも数値が大きいのですが、購買力平価換算では近年この両国に抜かれています。
為替レート換算では同じくらいの水準のドイツとカナダですが、購買力平価換算だとドイツの方が一回り大きい水準になっています。
2. 購買力平価換算の1人あたりGDP
それでは、具体的な数値でドル換算値を比較してみましょう。
図2は、1人あたりGDPについて2021年の数値を比較したグラフです。
購買力平価換算(赤)と為替換算(青)を併記していて、購買力平価換算値が大きい順に並べています。
また、各国の物価水準(購買力平価と為替レートの比)も表記しています。
物価水準の高い国は購買力平価換算値が為替レート換算よりも小さくなります。物価水準の低い国はその逆ですね。
購買力平価換算値で見ると、日本の1人あたりGDPは43,000$程度で38か国中25位と下位になります。
為替レート換算だと20位ですが、日本よりも物価水準の低い韓国、イタリア、イスラエル、リトアニアなどに抜かれている状況ですね。
1人あたりGDP 2021年
単位:$ 38か国中
購買力平価換算 / 為替換算 / 物価水準
5位 69,558 / 69,558 / 1.00 アメリカ
12位 58,861 / 51,204 / 0.88 ドイツ
15位 52,022 / 51,988 / 1.00 カナダ
16位 50,544 / 43,360 / 0.86 フランス
17位 49,525 / 47,191 / 0.95 イギリス
18位 47,242 / 34,998 / 0.74 韓国
20位 46,073 / 35,657 / 0.77 イタリア
25位 43,002 / 39,341 / 0.91 日本
3. 購買力平価で換算する意味とは?
購買力平価でドル換算する意味を考えてみましょう。
購買力平価 = 基準年の購買力平価 x 自国の物価変化率 ÷ アメリカの物価変化率
購買力平価換算値 = 名目値 ÷ 購買力平価
= 名目値 ÷ 基準年の購買力平価 x アメリカの物価変化率 ÷ 自国の物価変化率
= 名目値 ÷ 基準年の購買力平価 x アメリカとの物価変化率の比
現在OECDで公開されている購買力平価は、ある基準年の購買力平価に対して、自国とアメリカの物価変化率の比をかけたものになります。(参考記事: 「購買力平価」って何?)
つまり、購買力平価換算は、アメリカと自国の物価変化率の違いと関係する事になります。
まず、各国の物価変化率について、確認してみましょう。
図3が各国の物価指数(GDPデフレータ)の変化率です。
1970年を基準(1.0)とした倍数として表現して言います。
日本は1990年代をピークにしていったん減少し停滞が続いていますが、他国は基本的に右肩上がりで物価が上昇しています。
当然アメリカも物価が上昇していますので、次にアメリカの物価変化率との比を確認してみましょう。
図4がアメリカの物価変化率に対する、各国の物価変化率の比です。
アメリカよりも物価が上がっているかどうかを表すと考えれば理解しやすいと思います。
この形が購買力平価の推移と相似形になります。
4. 物価水準の意味とは?
物価水準 = 購買力平価 ÷ 為替レート
= 基準年の購買力平価 x 自国の物価変化率 ÷ アメリカの物価変化率 ÷ 為替レート
このような表記にすると、物価水準は物価変化率の比(図4)を基本形として、為替レートで補正した数値という見方もできますね。
図5が物価水準を計算したグラフ(物価水準=購買力平価÷為替レート)です。(参考記事: 「物価水準」って何だろう?)
日本は1995年に1.86とアメリカの2倍近くの物価水準に達しています。物価が高いと言われるスイスを上回る水準だったわけですね。
当時他国から見れば日本は高い国だった事になります。
しかし、他国の物価が上がる中、日本だけ物価停滞が続いた事でその後物価水準も低下傾向が続いています。
直近の2021年にはアメリカやイギリス、カナダを下回る水準にまで落ち着いてきている状況です。
日本は経済水準や人口の割に輸出の少ない国ですが、製造業の海外進出は盛んです。
一方、他国企業の日本進出は極端に少なく、先進国の中で極端な産業の空洞化が進んでいる国ですね。
他国は流出と流入が双方向的です。(参考記事: 実は「内需型経済」の日本、 日本製造業の歪なグローバル化)
1990~2000年代は、日本は他国から見れば極端に割高な国だった事を考えれば、このような事態が進んできたことに一定の納得感があるのではないでしょうか。
近年ではその物価水準も他国並みになってきたので、日本は既に高い国ではなくなっています。
この新しい局面に合わせた産業の在り方が見えてくるかもしれませんね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。