返り咲きを狙うトランプ、日米関係はどうなる?

焦るトランプ大統領候補

今月15日、ドナルド・トランプ前大統領は2024年大統領選への出馬を宣言した。選挙に負けた大統領が大統領選への挑戦を目指すのは異例であり、次の大統領選まで2年を残しての出馬表明も異例中の異例である。

出馬宣言は数か月前にFBIによって強制捜査にあったマール・アラーゴで執り行わたが、そこには普段とは様変わりしたトランプ氏の姿があった。

トランプ氏の演説は原稿を無視しして、面白おかしく、彼自身が話したいことを話し、時には人格攻撃もいとわない特徴があった。

しかし、自身の邸宅で行われ出馬表明演説は原稿に忠実であり、大統領らしさを出すあまり、自身の政権の実績や政策目標をひたすら並べる「一般教書演説」のような演説となっており、正直つまらなかった。実際、退屈さを感じたのは筆者だけではなく、トランプ政権に終始批判的だったCNN、トランプ氏の御用番組ともなっていたFOXニュースはトランプ氏の演説途中で中継を終えている。

これまで支持者を集めた集会などで見られた自由奔放さをトランプ氏が封印したのは中間選挙で共和党を敗北に追いやった彼なりの敗戦責任の現れだ。共和党は中間選挙で思うように票が伸びなかった。その結果を共和党内では2020年大統領選の結果を否定する候補をトランプ氏が大量に擁立したことを原因とする批判が噴出している。トランプ氏が出馬表明で2年近く言い続けた選挙結果を否定する言明をしなかったことは彼自身が誰よりも批判を真に受けている証拠だ。

訳:(出馬声明で)ストップ・ザ・スティ―ル(2020年大統領選が不正選挙だったと主張する運動)と人口妊娠中絶についてトランプからは一切言及が無かった。彼でさえもそれらがいかに不人気なのかを理解している。

また、トランプ氏からフロリダ州知事選で大勝したロン・デサンティスに鞍替えする動きも党内では出てきている。トランプ氏と敵対している圧力団体が発表した疑似的な共和党予備選の世論調査の結果によると、競っているはいるものの、デサンティス氏の支持がトランプ氏を勝っている傾向が見られる。それゆえ、デサンティスなどの対抗馬の機先を制して、自らへの脅威の芽を摘むことも出馬の理由として考えられる。

トランプ大統領 WinRed HPより

トランプ再選はあるか?

豊富な選挙資金、党内岩盤支持層の熱烈な支持を持っていることから、既にトランプ氏は共和党内の競争においては暫定的なトップランナーであることは間違いない。2016年の共和用予備選のように候補者が乱立すればなおさら勝機が高まる。

しかし、党内の反トランプ層が衆目一致する候補を定め、トランプ氏との直接対決を演出することが出来れば、流石のトランプ氏も苦戦するであろう。一方、今回の中間選挙が結果が示したように、トランプ氏は全米で不人気な存在であるゆえに、党内の選挙では勝てても、大統領選となるとさらにハードルが高くなる。現在進展している彼に対する連邦捜査が進展し、今後被告人として扱われるような状況になれば、穏健な層からの離反を促し、なおさら当選する可能性が低くなる。

だからといってトランプ氏の再選はあり得ない話ではない。2020年、トランプ氏はコロナ対策で何万人もの死者を出し、経済が低迷していたのにもかかわらず、現職大統領としては最多得票数を獲得した。総得票数ではバイデン氏には負けたものの、接戦州において計42,918票が動いていれば再選されていた。

コロナ対策以外でも混沌としていたトランプ政権だったが、そのカオスを拒絶することよりも、民主党嫌いが優先される有権者が多くいたのである。この現象は「否定的党派性」と命名され、自分の嫌いな政党との対立を中心に政治的意見を形成する傾向を指す。つまり、党内で不人気になっていくトランプ氏が大統領候補になったとしても、共和党支持者は民主党に対する憎悪が強いあまり、我慢してトランプ氏に投票し、再び大統領に押し上げる可能性も否定できない。

トランプを抑止していた安倍首相

トランプ再選が現実のものとなれば、懸念するべきは日米関係への影響である。特に今の日本政界において安倍氏のようにトランプ氏の暴走に歯止めをかける存在が見当たらないのは悩みの種である。

トランプ氏は同盟国に過度な要求を突き付け、同盟諸国から警戒されていたが、その中で安倍氏は上手く立ち回わり、信頼を獲得した。2016年の大統領選の結果が出てすぐに、トランプ氏の元に馳せ参じるというパフォーマンスであったり、来日した際に国賓待遇として盛大にもてなし、ゴルフにも応じるなどしてあらゆる形でトランプ氏の懐の中に入っていった。国内の観衆向けの出馬表明の途中で、トランプ氏が安倍氏のことを「親友」だとわざわざ言及していたことは安倍氏の人心掌握が成功していたことの証左だ。

もちろん、安倍氏の努力は全て報われたわけではない。時にトランプ氏は日本の国益とは逆行する決定を行っている。例えば、日本が北朝鮮に対しての強硬姿勢を求める中で、トランプ氏は金正恩氏と関係を強め、それを恋愛関係に例えた。また、トランプ氏は安倍氏が日本が石油を依存するイランと米国の緊張緩和に動いた直後に対イランの追加制裁を発表した。

安倍氏は生前、過度とも批判されていたトランプ氏に対する配慮は日本の国益をトランプ氏の暴走から守る「抑止力」の一環だったと述べていた。我々が理解しなければならないのは安倍氏のトランプ氏に対する働きかけあっにも関わらず、日本の国益を逸脱するような行動がトランプ氏から時には見られたことである。つまり、安倍氏の存在がなければ、日本の国益がトランプ氏の暴走によって著しく侵害された可能性も当時あったことだ。

日米の良好な関係は日本の安全保障のみならず、地域の安定にとっても肝要である。それゆえ、安倍氏亡き今、トランプ氏の再登板に備えて日本の指導者たちには、いかに彼の「最悪な直感」から日本の国益を守るかを安倍氏のアプローチを材料に研究してもらいたい。