摂氏-20度のウクライナに発電機を:ロシア軍による電力供給網の破壊

ロシア軍は11月から戦場での戦闘を避け、ミサイル攻撃でウクライナのインフラ攻撃を強めてきている。その狙いはウクライナ国内の電力供給網の破壊だ。ウクライナでは11月に入り、マイナスの気温だ。これから厳冬に入れば、マイナス20度にも下がる。ロシア軍がウクライナ侵攻する前だったら、大きな問題はない。気温が下がれば、暖房をつければいいのだ。しかし、その暖房のエネルギー供給源がロシア軍のロケット砲で次から次へと破壊されてきているのだ。

北大西洋条約機構(NATO)の年次総会で演説するウクライナのゼレンスキー大統領(2022年11月21日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

ウクライナは本来、人口約4400万人の大国だ。その国の電力を支援することは欧州連合(EU)加盟国にとっても容易ではない。プーチン大統領は欧州向けの天然ガス供給を完全にストップし、ロシア産の天然ガスに依存してきたドイツなど西側諸国のエネルギーをも危機に陥れてきている。そのような情況下でウクライナへの大規模な電力支援は難しい。ウクライナ国民としては早急に電力網の回復を期待する以外に対応がないわけだ。

ちなみに、スペインのアルバレス外相は19日、ウクライナに発電機14台を供与したことを明らかにしている。同外相は、「ロシア軍のインフラ攻撃でウクライナは極めて厳しく困難な冬を迎える」と指摘、発電機支援を呼び掛けている。

ロシアン軍の砲撃はウクライナ国内の電力インフラ、水道などを破壊する一方、病院など医療関係施設を破壊している。世界保健機構(WHO)によると、ロシア軍のウクライナ攻撃で既に700カ所の病院医療関係が破壊されたという。その結果、国民への医療供給は難しくなる。冬になれば、風邪が広がる。その治療する医療品、医師も少なくなっているというのだ。

キーウを訪問したWHO地域担当事務局長ハンス・クルーゲ氏は21日、「ウクライナでの戦争の開始以来、国の医療インフラに対する700件を超える攻撃があった。これは国際人道法と戦争のルールに違反する」と指摘し、「燃料、水、電気の不足により、何百もの病院や医療施設が完全に機能しなくなっている。第2次世界大戦以来、ヨーロッパの医療に対する最大の攻撃だ」と強調した。

クルーゲ氏はまた、「ウクライナ国民の前には生命を脅かす冬が控えている。数十万の家やアパート、学校、病院に暖房がない。1000万人が電気を利用できない状況下にある。冬には気温が摂氏マイナス20度に下がると考えれば、国民にとって健康上のリスクは大きい。寒い天候は致命的となる可能性がある」と警告を発している。

冬は新型コロナウイルスなどの呼吸器感染症の脅威が高まる。ウクライナ国民の大部分が十分に免疫を持っていないと予想される。また、石炭や木材、または発電機を使用した代替暖房に頼ることになるため、子供、高齢者、呼吸器疾患や心血管疾患を持つ人々に有害物質による健康上のリスクが出てくるだけでなく、事故による火傷や怪我を引き起こす危険性が高まる。

ウクライナのエネルギー供給業者によると、国民は来年3月末までは停電が生じることを覚悟しなければならないという。電力会社「ヤスノ」の責任者によると、技術者は、冬が本格化する前に送電網の損傷を修復するために奮闘中という。

ウクライでの新型コロナウイルスの感染状況に関する正確なデータはないが、感染力のあるオミクロン株がこの冬、戦時下のウクライナで拡大する危険性が懸念されている。ウクライナ国民を対象としたPCR検査の実行は戦時下のウクライナでは難しい。一方、ロシア軍の攻撃を避け、本格的な冬の訪れの前にポーランドやバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)に避難する国民は再び増えるだろうが、コロナに感染した避難民が多数入国する状況が考えられる。そのため、ウクライナ避難民を迎え入れる側も大変だ。受入国でコロナ感染が拡大する状況になれば、ウクライナ避難民がスケープゴートとなって、「避難民の受け入れを制限すべきだ」という声が広がることが予想されるからだ。

【当方の嘆き】
地球に迫る小惑星の軌道さえも変えることが出来る科学技術を有する21世紀に生きる人類で、摂氏マイナス20度の寒さに震える国民がいるという現状は何を意味するのか。戦争を始めたロシアのプーチン大統領の責任は明かだ。ただ、それだけではないように感じる。地の富と恵みが公正に人々に分配されていないという、人類が久しく直面してきた根本的な欠陥が依然、解決されていないのだ。同時に、個人、民族、国家のアイデンティティを超克する“普遍的な真理”を人類はまだ見出していないからではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。