ウクライナ戦争と台湾侵攻、両者を分かつものは何か?

論理の整理

ウクライナ戦争の鬩ぎ合いが続く一方、中国の台湾侵攻の危機が高まっている。予てから、両者の地政学的図式には相似性があると言われている。

イーロン・マスクは、Twitter上でウクライナ戦争和平案を表明した後、数日を経ずして「台湾の特別行政区案」をツイートした。台湾侵攻を避けるための案としているが、彼の頭の中でもウクライナと台湾の置かれている立場は相似形をしているのだろう(参照拙稿「ウクライナ戦争の行方:「冬将軍」とイーロン・マスクの和平案」)。

確かに両者には直感的に見て相似性がある。この中でもし両者を分かつものがあるとするなら、それは所謂「居留民保護」となるだろう。

ロシアの侵攻時、ドンバス地方の住民はウクライナ国籍であったので、居留民保護というのは正確な用語ではないだろうが、プーチンは当地のロシア系住民が身体生命の棄損を含む迫害を受けていたと主張している。(なお、ロシア側の主張でも2015年のミンスク協定以降、様々な形で殺害されたのは、数千人から1万数千人とブレがある)

このロシアの主張がそのまま受け入れられる訳では勿論ないし、居留民保護を目的とした侵略戦争も国際法上は許されてはいないが、停戦交渉の際には大きなファクターとはなって来るだろう。

一方、中国の台湾侵攻に関しては、台湾で中国人が迫害されているという事実はない。

この点は、我々第三国側としても論理の整理が必要である。さもなくば、両者の問題は地続きとなり、極論すればウクライナ戦争ついて、①停戦交渉でロシアに対し全く妥協の余地をなくすか②妥協を受け入れると共に中国の台湾に対する領土的野心も容認するかという二者択一のジレンマに陥るだろう。

侵攻で亡くなった人びとを弔うゼレンスキー大統領 同大統領Fbより

台湾侵攻

習近平は、10月の共産党大会で3期目の党総書記、国家主席に就くことが確定した。だが人事を側近で固める一方、党主席への就任、「習近平思想」を党規約に書き込む事等には失敗した。長老達がその点で立ちはだかったと聞く。台湾併合については、長老達の心中にはブレはないが平和裏に行いたいという辺りが平均値か。

台湾併合を行うため武力侵攻も辞さずとするのは、従来の党方針である。習近平もそれを踏襲して表明したが、単にそうしただけでなく何としても毛沢東と並び歴史にその名を刻むために、搦手での併合が進まなければ武力侵攻をする肚を固めていると思われる。党大会での人事は、李克強等の経済通を葬り去るとともに、中央軍事委員会の体制を台湾情勢に精通した幹部の重用で固める等、台湾侵攻シフトと言える。

更には、①党大会後もゼロコロナ政策を続けており中国経済が立ち行かなくなる事、②そうした締め付け政策を見て平和裏の併合なら容認する台湾人が減る事、③米国が対中輸出規制を強化しており半導体を中心とした台湾のハイテク技術の奪取を急ぎたい事、これらを考えればより台湾侵攻に向かう必然性が高まっていると見るべきである。

世界が紛争、エネルギー危機、食糧危機、経済財政危機等々、風雲急を告げる中、世界秩序を新たにデザインする必要がある。それは、中露疑似同盟間に楔を打ち込み、ロシアも加えて大きく中国包囲網を形成しその牙を抜く事が、中心に据えられなければならない。

さもなくば、電脳社会主義の独裁監視国家の覇権によって地球が覆われることになろう。現状に於いても、市場大国中国は、資源食糧大国ロシアをジュニアパートナー化し、アラブを含むグローバルサウスを巻き込み西側との対決の布陣を固めつつある。

正義とは即ち、より良き秩序である。それは、現実的な世界秩序の維持構築を欠いては成り立たたない。ウクライナ戦争と台湾情勢の短絡的な同一視を避けねば、世界は道を誤るだろう。