イーロン・マスク氏が広げる米政治の二極化

毎日のようにニュースに登場するイーロン・マスク氏。10月末にTwitterを6兆円で買収以来、株式上場を廃止、全重役陣の更迭し、従業員の3分の2近くの首切り、トランプ前大統領の永久追放の解除、自らは<Chief Twit>と名乗るなど、まるで専制君主のような強権ぶりに耳目が集まります。それが米国ではどのように受け止められているのかを知る興味深いレポートに出会いましたのでご紹介します。

マスクの政治的二極化効果」と題して、「グローバルリーダー向けの実用的なインテリジェントサイト」を標榜するMorming Consultが配信したもので、冒頭に「マスクは数週間でTwiterのファン基盤をひっくり返した」と書き出します。

どういうことか。もともとTwitterは政治的にリベラルな層、つまり民主党支持者に好まれるとされてきました。それが大きく揺らいでいるのです。

具体的には、政党別のTwitterへの好感度と信頼度を年初1月と買収後の11月で見ると「激動」というしかない数字になりました。以下のグラフは「好感を持つ」から「好感を持てない」を差し引いた数字の変化を月ごとにしましたものです。左が「好感度」で右が「信頼度」です。

青い線は民主党支持で1月に、「好感を持つ」から「好感を持てない」を差し引いた値は20.4ポイントでしたが、騒ぎが拡大した11月には「好感を持てない」が急増、マイナス3.2ポイントまで下がりました。その落差は23.6ポイントです。その反面、従来は冷たい目を抜けていた共和党支持者に、「好感を持つ」人が急増、差し引きで拮抗するように変化しています。

信頼するかどうかでも同じ傾向で、年初には、民主党支持者間でTwitterを信頼する人は差し引き12.6ポイントに達していたのに、11月にはマイナス16.7ポイント、実に29.3ポイントもの下落です。

記事では、「コンテンツ(投稿内容)の監視に関するルールが流動的であるか、全く存在しないように見える中での、こうした突然の大規模な認識の変化によってTwitterでの広告出稿のリスクが高まっている」とも指摘します。

例えばマスク氏の新方針で拙速に打ち出された月8ドルの認証マークでは、なりすましが横行、その一つ製薬メーカーEli Lillyのケースでは、デタラメ投稿のせいで株価が4.5%も下がったそうですから。

こうした事態を引き起こしたマスク氏本人や、TeslaやSpaceXというマスク氏の世界的ブランドについてはどうか。これについてもMorning Consultは、「消費者は企業のCEOに何を期待するか」という月例の調査を公表しており、その11月版ではケース・スタディとしてマスク氏を取り上げています。

それによると、マスク氏の米国での認知度は今年8月で94%にも達していました。これは97%のFacebookマーク・ザッカーバーグ氏に次ぐ2位で、90%を超えるのは93%だった”投資の神様”ウォーレン・バフェットと合わせて3人だけです。それほどの有名人ってことです。

しかし、先のTwitterの好感度と同じような正味の好感度は昨年2月には22ポイントに達していたものが、Twitter買収を明らかにした今年5月以降は下がり続け、10月には9ポイントまで下落しました。知名度が上がるにつれて彼の奔放な物言いと、Twitterを嫌う共和党支持者に拒否反応が広がったせいかもしれません。

いずれにしろ、彼は一番目立つ存在であり、技術革新にも前向きなことは多くの人が認めていますが、彼が正直で誠実な人物かどうか(31%が反対)、彼の価値観が自分の価値観と一致しているかどうか(35%が反対)については懐疑的な意見も一定数あります。

さらに先の中間選挙で、マスク氏が共和党支持を打ち出しましたが、このようにマスク氏が右寄りになると同時に、Twitter社内でのワンマンぶりが喧伝されればされるほど、上のグラフにあるような「好感度」と「信頼度」の歪みが顕著になって、ブランドへの影響も無視できない様相です。すでにTeslaブランドへの好感度も大幅に下がっているようですし。


編集部より:この記事は島田範正氏のブログ「島田範正のIT徒然ーデジタル社会の落ち穂拾い」2022年11月30日の記事より転載させていただきました。