「反撃能力」議論の問題点:「反撃」できるのはいつなのか?

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先月末、政府の国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に向け、自民、公明両党の実務者協議で、「反撃能力」(いわゆる「敵基地攻撃能力」)の保有について実質合意した。両党は12月2日に正式合意する予定だ。正式合意を受け、政府は年内に改定する3文書に「反撃能力」の保有を明記するという。

焦点とされたのは「反撃」の要件である。NHKは、先月末放送された「ニュース7」で、この点を詳しく掘り下げ、「仮に相手が武力攻撃に着手する前に敵の基地などを攻撃すれば、国際法で禁止された「先制攻撃」となるおそれがあります」との懸念を報じた。

エラー|NHK NEWS WEB

同様に朝日新聞も、翌日の朝刊紙面で、「敵基地攻撃能力、増す攻撃性 「着手」見誤れば「先制攻撃」に」との見出しで(デジタル版)、こう書いた。

日本が敵基地攻撃を含めて相手を攻撃できるのは、「日本に対する武力攻撃が発生した時点」だ。「発生」の定義について、政府は「相手が武力行使に着手したとき」としている。この「着手」を見誤ると、国際法違反の「先制攻撃」に問われる。/だが、「着手」の認定は難しい。

政府も与党もマスコミも、以上のとおり理解し、議論してきたが、そもそも前提が間違っている。「着手」とは、「未遂」を踏まえた刑法の概念であり(刑法43条)、国際法違反の「先制攻撃」か否かの判断要件として、ふさわしくない。

上記記事の「武力攻撃が発生した時点」が何なのかも、よく分からないが、好意的に解釈すれば、国連憲章第51条の誤記であろう。憲章はこう定める。

この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。(以下略)

Nothing in the present Charter shall impair the inherent right of individual or collective self-defence if an armed attack occurs against a Member of the United Nations, until the Security Council has taken measures necessary to maintain international peace and security.(強調は潮)

上記のとおり、国連憲章が自衛権行使の要件とした「武力攻撃が発生した場合」の英文(正文)は「if an armed attack occurs」である。いわゆる「3単現の s 」が示すとおり、時制に着目し、正確に翻訳すれば、「武力攻撃が発生した場合」ではなく「武力攻撃が発生する場合」となろう。

それが「反撃」であれ、「敵基地攻撃」であれ、国際法上許された自衛権を発動できる要件は、世界共通「武力攻撃が発生する場合」である。日本だけが「着手」云々のドメスティックな法解釈に縛られる道理はない。

通説的な国際法学者の説明を借りれば、「第二次大戦の初め、日本の連合艦隊が北方千島列島海域の湾にひそかに集結していたが、そこにハワイの真珠湾攻撃の命令が東京の軍令部から発令されたとき、そこに『武力攻撃』は存在するにいたっている。(中略)核ミサイル攻撃でも、相手国のミサイル弾基地に攻撃が命令されたときに『武力攻撃』は存在するにいたっている」(高野雄一『国際法概論』弘文堂)。ミサイルが着弾し「すでに日本の国土や人間に被害が発生している」必要はない(同前)。

かりに以上を「先制攻撃」と呼ぶなら、それは国際法上の正当な権利(自衛権)である。

蛇足ながら、『防衛白書』は毎年、「専守防衛」を、以下のとおり、説明してきた。

専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう。(強調は潮)

最低でも、上記下線部の表現を修正しないかぎり、いくら「反撃能力」を保有しようが、相手からの武力攻撃は免れない。このままでは、名実ともの「反撃」(ないし復仇)となる。

拙著最新刊で述べたとおり、国際法上許されているのは「自衛」であり、「反撃」(や復仇)ではない(後者は国連憲章違反)。

この際、国連憲章51条の邦訳から修正しては、どうか。