FIFAワールドカップ(以下、W杯)に出場中の日本代表、森保“ブラボー!”ジャパン、優勝候補だったドイツ代表、スペイン代表に打ち勝ち、決勝トーナメントに勝ち進みました。
まさにブラボー!な歴史的快挙です。早朝から日本中で歓喜の声が満ち溢れました。
クロアチア代表とは対等な勝負ができるのか?
この喜びにもっともっと酔いしれたいところなのですが、すぐまた決勝トーナメント1回戦クロアチア代表戦が迫っています。
日本代表とクロアチア代表、過去の対戦は1勝1分け1敗と、一見すると五分の戦績のように見えます。今大会ではFIFAランク22位のモロッコ代表と引き分けています。
FIFAランク24位の日本代表の実力なら対等な勝負ができるのでは…と思えてしまうかもしれません。
ですが、これはとんでもない誤解です。クロアチア代表は前回大会では準優勝、もしかしたらドイツ代表、スペイン代表よりももっと強敵かもしれません。
そんな強敵に私たちの森保“ブラボー”ジャパンはどう勝利をつかめるのでしょうか?
実は日本代表とクロアチア代表には「因縁」のようなものもあります。この因縁を知って「サッカー日本代表という物語」に参加できれば、クロアチア代表戦をもっと熱く観ることが出来るでしょう。そこで、ここではクロアチア代表と日本代表のこれまでを振り返ってみましょう。
“東欧のブラジル”の一角、クロアチア
まず、サッカーに興味が深い方でない限り、クロアチアという国そのものにあまり馴染みがないかもしれません。ですが、サッカーにおいてはドイツ代表、スペイン代表に勝るとも劣らないサッカー強豪国の一つです。
それに、日本の1勝は今となってはノーカウントと考えたほうが良いでしょう。
まず、国家としてのクロアチアは、1991年に崩壊した旧ユーゴスラビアの一部でした。旧ユーゴスラビアと言えば「中欧のブラジル」と呼ばれた欧州のサッカーどころ。その名の通り、卓越したボールコントロールで世界を魅了しました。
代表チームは1930年からW杯に参加し、この大会で4位、1962年も4位、という堂々たる実績。ヨーロッパを代表する伝統ある強豪国の一つでした。
ここでは政治的な話は省きますが、クロアチアはこの「東欧のブラジル」の一角だったのです。1990年代半ばからクロアチア代表として本格的に国際舞台で活躍し始めます。
日本代表の1勝はどう考えたら良いのだろうか?
日本代表がクロアチア代表に勝利したのは1997年、親善試合でホームゲームのキリンカップでした。クロアチアにとっては「絶対に負けられない真剣勝負」ではなく、1998年フランスW杯で得点王になるシューケルや当時世界最高峰リーグ(Serie A)だったイタリアの最強チーム(ACミラン)で活躍するボバンも出場しませんでした。
実際、翌年の1998年フランスW杯、中田英寿や名波浩を中心選手とした岡田健史監督率いる日本代表(第1次岡田ジャパン)はグループリーグで再びクロアチア代表と戦うわけですが、1997年の対戦とは違い0-1で勝ち点3を献上することになります。
このゲーム、クロアチア代表のテクニックと巧みな試合運びに対して、日本代表は組織的なプレスで対抗する展開。1997年の対戦とは全く別チーム同士の対戦のようでした。
日本代表は猛暑の中で力尽き、プレスがかからなくなりシューケルの1撃に沈んだ印象のゲームでした。
そして、2006年ドイツW杯、再びグループリーグで対戦します。このときの日本代表は1998年に比べ大幅に戦力アップしていました。イタリアでの活躍で名を馳せていた中田英寿(当時はイングランド・ボルトンに所属)、イングランドで活躍する稲本潤一、スコットランドで活躍する中村俊輔ら中盤に名選手を擁しての戦い。前回のリベンジが期待されていました。
実際、お互いにチャンスを作り、チャンスを凌ぐというゲームでした。ただ、結果は0-0で引き分け。結果的に日本代表もクロアチア代表もグループリーグで敗退しました。
つまり、日本代表はW杯という真剣勝負の場では0勝1分け1敗なのです。W杯では勝ったことがない相手、そして、グループリーグで敗退した大会での対戦相手、因縁の宿敵と言っても過言ではないでしょう。
世界最高選手、ルカ・モドリッチ
そして、今大会のクロアチア代表は2006年W杯に出場していたルカ・モドリッチが中心選手です。当時は代表ではデビューしたばかりのルーキー、クロアチア国内でプレーしていた若手でした。
それが、今となっては世界最高チームの一つレアル・マドリーで5回の欧州チャンピオンズリーグ制覇を成し遂げるなど、数々のタイトルを獲得。2018年にはリオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウドを抑えてバロンドール(世界最高選手)にも輝いています。
2006年から日本代表は着実に発展していると言えますが、クロアチア代表はルカ・モドリッチに象徴されるようにもっとレベルアップしている印象です。こんな因縁の相手に勝てるのでしょうか…。
私たちの森保“ブラボー”ジャパンがどのように戦うべきかは、また考えたいと思います。ただ、このような因縁の難敵だからこそ、ドイツ代表、スペイン代表の勝利とは違った意味で、日本サッカーの歴史を作る一戦になり得ると言えるでしょう。
さあ、日本代表の新しい歴史が生まれることを祈って、熱いエールをカタールへ送りましょう!
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杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
「心理学でみんなを幸せに」を目指した心理学研究が専門。
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