カルテルや談合といった独占禁止法の不当な取引制限規制違反を行なった事業者には一定の計算式(違反行為に係る売上額に法定された条件に応じて一定率を乗じる)によって導かれる課徴金の納付命令が公正取引委員会によってなされるが、違反事実を自主申告した事業者には公正取引委員会の調査開始の前後、その順位、そして公正取引委員会への協力の有無(度合)等によってその減免を認める制度(リーニエンシー制度などと呼ばれる)がある。
この制度をめぐって、先日、次の読売新聞の記事(2022年12月2日)に接した(「関電主導のカルテルなのに…電力各社、関電の「無罪放免」に怒り」)。
顧客獲得競争をやめるためのカルテルを結んだとして、西日本などにある大手電力各社が1日、計1000億円超の課徴金納付を求める処分案を通知された。カルテルの中心になったという関西電力(大阪市)は違反の自主申告により処分を免れる見通しで、各社からは不満が漏れるが、公正取引委員会の幹部は「電力自由化の理念をゆがめる行為をした各社は、いずれも悪質だ」と指摘する。
密室で行われるカルテルや談合は、その違反の重大性にも拘らず当局による発見が困難であることから、違反事実を効果的に把握し、立件を容易にするために、違反事業者からその事実を申告させるインセンティブを与える何らかの仕組みが必要である。
そこで2005年の独占禁止法改正で導入されたのがリーニエンシー制度である。違反の効果的な抑止も期待できる。これまでに何度か改正され、現在の形に至っている(その制度の概要は公正取引委員会のウェブサイトを参照のこと)。
「カルテルの中心になったという関西電力が・・・処分を免れた」という不満は他の事業者の立場からすれば理解できる。自ら他の業者を巻き込んでおいて自らが制裁から免れるというのであれば、巻き込まれた方からすれば「もらい事故」みたいなものだからである。
しかし、支配型私的独占になるような特殊(例外的)なケースを除いて、独占禁止法違反を「する」か「しない」かの判断において「する」という決断している以上、責任は免れない。
「不公平感」は確かにある。しかし、この制度それ自体が、違反行為をしておきながら(違反により利益を出しておきながら)課徴金が減免されることに、国民からの不公平感(反倫理感)が伴うものであった。それよりも違反の摘発と違反の抑止の効率性にこの制度の合理性が見出された。
残存する利益はより大きな国民の利益を得るための「インセンティブ」だ。他の事業者への違反行為の「強要」、他の事業者に対する違反行為をやめることの「妨害」のような例外的場面でない限り、申告事業者への減免は認められる。
そういう制度になった以上、コンプライアンス活動はそれを前提になされなければならない。それでも不公平云々をいうのであれば、その事業者のコンプライアンスはその程度のものだ、ということになる。
リーニエンシー制度が導入されてそろそろ20年が経過しようとしているが、まだまだコンプライアンスのマインドは旧態依然、ということか。