NHK、もう無料にしていいのでは?:改革がいつも骨抜きになるわけ

NHKの会長に元日銀のホープ、稲葉延雄氏となることが発表されました。6代連続で外部からの登用になるが問題山積のNHKにどう立ち向かうのかその手腕が問われるといったニュースの論調が多いようです。個人的には何も変わらないと思います。過去5代の外部から招へいしたそれなりのキャリアの方々に何が出来たかと言えば何もできず、むしろ、3年間というお勤め期間を無事に終わらせることだけが主眼となっていたように思えます。

思うにどの方も就任時には「どうにか、改革を進める」という意思をお持ちで業務に臨むのだと思いますが、はかない夢に終わるのは改革プランが骨抜きになるような人事構造がそこにあるからだろうとみています。つまり、社内が一種のNHK病でまん延され、独特のプライドの塊が存在する中で、が外部招へいのNHKの会長は期待されても結局、いつの間にか、一流のNHK内部の政治的配慮に長けたバランサーになるのでは、と感じるのです。

NHK放送センター Wikipediaより

NHKの役割をそのウェブサイトから拾うと、「公共放送であるNHKの使命や役割は、視聴者のみなさまからいただいた受信料をもとに、放送の自主自律を貫き、視聴者の判断のよりどころとなる正確な報道や豊かで多彩なコンテンツを全国で受信できるよう放送することで、『健全な民主主義の発達』や『公共の福祉』に寄与することです」とあります。

平たく言えば役人が「わしは国家を背負っている」と意気込むのとほぼ同じで、「俺のこの原稿が世界の隅々に影響を与える」ぐらいの感覚だと思います。

その精神は立派ですが、NHKが生まれたのは1950年。それからメディアの置かれている世界は何次元も変化しています。当然、社会も視聴する人も変わってきています。情報はあふれ、公共放送の情報こそが最も公平で信頼しうるという意味が薄れてきたのはご承知の通りです。そもそもNHKは公平でバランスに長けているのか、という議論も当然あります。

もちろん、NHKに対して一定の敬意もあります。例えば同じニュースをより公平な目で確認したい場合、ご意見百出であることは分かっていますが、それでもまだメディアとしての価値は大いにあります。それは民間メディア、特に民間放送のレベルの低さと表現力の稚拙さと比べると時としてNHKのニューススクリプトは読んでいてほっとすることはあるのです。

NHKは海外向けにも様々な情報を流しており、外国のホテルでNHKが見られるケースもよくありますが、それはNHKの世界への影響力でもあります。民間の放送局はほとんどそれはありません。ということは世界に対する日本のステートメントだともいえるのでしょう。主要民放はニュース番組をユーチューブで流している程度であり、その存在感の違いは雲泥の差であります。

さて、そのNHKの様々な問題の一つが視聴料です。国民からの圧力もあり、引き下げも実施しましたが、個人的にはあまり意味のないやり取りだと思っています。NHKが映らないテレビが堂々と売られる時代に於いて視聴者は無限ともいえるほどのメディアの選択肢の中から有料の番組をほぼ強制的に選択させられる理由はほぼほぼないだろうと思うのです。

国営放送が受信料を徴収するのは欧州に多く見られます。アジア諸国は韓国が電気代程度を取りますがそれ以外の国はどの国もほぼ無料、北米もゼロです。また欧州でも受信設備を持っている人だけを徴収するなどそこにはフェアな考え方が踏襲されています。では、NHKがとても立派でお金を払ってもどうしても見たい放送局になればよいという目標を立てるのが良いか、と言われれば否です。理由はNHKは公共というとても面倒な言葉があらゆる自由から手足を縛ってしまっており、面白い番組を作る限界があるのです。

放送番組のバランス、視聴者の年齢層や性別、放送内容の思想的中立性、低廉な製作費、公共故に広告なし…といったフィルターをかけるとどうしても堅苦しくなり、尖った番組は作れず、大河ドラマのような現代とはかけ離れた世界に焦点を当てるか、紅白歌合戦といった老若男女対象のバラエティにするしかないのです。つまり、制作側も大変ですが、見る側も大変なのです。

個人的に思うのはNHKがなぜ、国営放送として政府の補助金で運営できないのか、と思うのです。NHKの収入は年間6890億円(令和4年)です。日本の国家予算を考えると全部をカバーできない金額ではありません。つまりそんなに膨大な金額の話をしているわけではないのです。しかも仮に政府の補助金運営をすればコストが大きく下がるのです。料金徴収のコストが無くなるだけで1割は下げられるでしょう。

また、以前から私がしゅちょう主張するようにNHKは海外向け国家戦略として大事なツールであり、そのせっかくのチャンスを上手に使っていないことはあまりにももったいないことである、と思うのです。例えば今、防衛費の増額が議論されていますが、国家の主張や姿勢、意見を海外向けに述べる一種のプロパガンダは日本の存在感が世界で薄くなるなかで重要な使命であります。ある意味、今、我々は国家戦略のために受信料を払っていると言って過言はないのです。これを言えばいくら何でも国民から同意を得るのは難しいでしょう。

もちろん、少子化の問題もあります。NHKの収入は否が応でも下がり続けるのです。但し、物価は上がり続け、組織は大きくなるとなればつじつまが合わなくなるのは時間の問題です。

抜本的な議論を国民とできるような意識調査と国民投票は必要でしょう。これぞ今の政治がやるべきことなのです。NHK議論のそもそもの入り口が違っているように思えます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月6日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。