サッカーW杯、日本対クロアチア戦の感想を書く予定だったが、当方は日本とクロアチア戦の前日(4日)、フランス対ポーランド戦を観戦して、弾丸シュート2発を放った仏FWキリアン・エムバペの凄さに感動し、その余韻が今も残っている。
エムバペのシュートは文字通り弾丸シュートであり、GKが動く前にボールはネットに突き刺さっていた。ひょっとしたら、GKがボールをキャッチしたとしても、ボールと共にネットに押し込まれてしまうのではないか、と感じたほどだ。タイミング、スピード、エムバペはやはり天才的な選手だと分かった。アルゼンチンのリオネル・メッシやポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドが抜けた後、エムバペが世界のサッカー界を引っ張っていくのはほぼ間違いないだろう。
もちろん、サッカー試合は個人スポーツではないので、イレブンの結束、連携なくして勝利は難しい。所属するチームでゴールを何度も打てる選手がナショナルチームでは本来の力をなかなか発揮できないのは、短期間での練習、調整だけで本選に出ていかざるを得ないので、コンビネーションやタイミングがもう一つ決まらないことが多いからだろう。例えば、カタール大会を最後のW杯と考えるメッシは今大会では得点を挙げているが、メッシのボールさばきは天才的だとしても、これまでW杯など国別大会では物足りない成績しか上げられなかったのは当然かもしれない。
それにしてもエムバペはまだ23歳だ。これからさらに伸びていくだろう。けがなどがない限り、サッカー界を引っ張っていけるスターだ。エムバペはカタール大会で既に5得点を挙げている。得点王の最有力候補だ。エムバペはW杯初出場のロシアW杯大会(2018年)では4得点だった。着実にパワーアップしている。
ブラジルからペレ氏(82)が闘病生活というニュースが流れてきた。ブラジル国民はペレ氏の回復のために祈りを捧げているという。ディエゴ・マラドーナが亡くなり、サッカーの神様と呼ばれたペレが死闘のベッドにいる。世界のサッカー界は新しいスターを見つけ、エムバペ時代に入ろうとしている。時間は止まらない。その非情さを痛感させるカタールW杯ともなった。
日本代表は素晴らしい活躍をした。予選でW杯覇者だったドイツ、スペインの両チームを撃破したことは日本のサッカー史に残ることは間違いない。クロアチア代表の主将でFIFAの最優秀選手賞にもなったMFルカ・モドリッチは、「日本チームがスペインとドイツの両チームを破った理由が分かった」と吐露したという。日本の場合、やはりチーム力であり、結束力だろう。素早いボールさばきは相手チームを脅かすのに十分だった。
森保一監督は試合後、「選手はよくやってくれた。感謝する、同時に、応援してくれた日本の国民にも感謝したい」と述べていた。PK戦で惜しくも敗れたが、仕方がない。どのスター選手でも大きな舞台でのPKは容易ではない。対フランス戦でPKしたポーランドのFWロベルト・レバンドフスキ―(FCバルセロナ)も1度は失敗していた。ドイツのブンデスリーガで何度も得点王に輝いた最高のFWですら、W杯の舞台でのPKは大きなプレッシャーとなるわけだ。日本の選手の場合、ファンや国民の支援、期待を強く感じるゆえに、さらにプレッシャーとなって日ごろの実力を発揮できなくなるのだろう。
オーストリア国営放送で試合を中継していたヘルベルト・プロハスカ―氏(元オーストリア代表MF)は現役時代、イタリアのセリエAで活躍した選手だが、「練習では簡単に打ててもW杯や欧州選手権では難しい」と語っていた。ロナウドも前回のW杯でPKを失敗した。PKを何度も経験した選手ですらPKでボールをネットに入れることは容易ではないのだ。だからPKで無事ゴールを挙げた選手がその直後、笑顔を見せて喜ぶのは当然のことだ。どの選手にとってもPKは大仕事だからだ。
日本チームはパスワークは素晴らしいが、ゴール前の争いで負けるシーンが多い。190センチ以上の長身選手が必要だ。ゴール前でボールを転がして攻撃するだけではなく、ゴール前でボールを打ち上げてヘッドでネットに入れられる選手が出てくれば、攻撃にも幅が出てくるから、相手チームにとっても脅威となるだろう。地上戦と共に空中戦の強化だ。
チャンネルを変えると、アルペンスキー大会が行われていた。ウィンタースポーツたけなわの中、中東カタールでサッカーのW杯が行われているわけだ。カタールW杯はさまざま批判を受けているが、その大会で世界のサッカー界は確実に新しい時代の夜明けを告げているわけだ。選手の技術力の向上もあるが、やはり1人の天才的な選手はサッカー界をさらに刺激的にしている。それだけに、若手の優秀な選手を抱えながらもGKマヌエル・ノイアー(36)やFW/MFトーマス・ミュラー選手(33)に拘るドイツチームの計画性のなさが否応なく目立った。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。