「全国旅行支援の日本人客」を敬遠する理由

日本人の国内旅行者が急増していますが、その理由の1つは、政府の観光振興策「全国旅行支援」です。しかし、私が運営している東京の民泊施設(写真)では「全国旅行支援の日本人客」をターゲットにするのは見送りました。

その理由は、手続きの煩雑さです。

確かに、全国旅行支援は、旅館業と簡易宿泊所、業界団体に加入している民泊が利用可能なので、私の施設も申請すれば対象にはなります。対象施設になれば、日本人旅行者の予約が期待できます。

しかし、その事務負担はかなり大きくなります。事務局への登録と報告、すべてのお客様への対面でのクーポンの手渡し、受領書の管理、陰性証明や接種証明の確認、受領と保管など、極めて人手がかかります。宿泊施設には需要が取り込める以外のメリットはありませんから、集客に困っていないなら申請する必要はないのです。

むしろ、日本人ゲストに全国旅行支援が使えないことを説明して、予約をキャンセルしてもらいました。

代わりにターゲットにしたのは外国人旅行者です。9月下旬に日本政府が10月11日からの入国者数の上限撤廃を明言してから外国人客が急増しており、需要が拡大しています。単価を上げて、海外の方に予約を取ってもらう運営を行いました。

そもそも、日本人観光客は宿泊施設運営者にとって、あまりうまみがありません。

予約は、平日は少なく休前日の週末に集中します。しかも、宿泊期間は短く、ほとんどが週末の1泊だけです。土日が短期宿泊の日本人でブロックされてしまうと、長期で泊ってくれる外国人の予約が入れられず、機会損失してしまいます。

また、ホテルより単価の低い民泊施設を利用する日本人は、家具を破壊したり、酔っぱらって嘔吐するなどマナーの悪い人たちが目立ちます。外国人の方が安心して宿泊してもらえるのです。

全国旅行支援とは外国人に相手にされない宿泊施設の救済のための政策にも見えてきます。でも需要を先食いしてるだけですから、来年からは日本人旅行者の数は減るでしょう。何を目的にした政策なのか本当に理解に苦しみます。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2022年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。