会社員の副業は事業所得か雑所得か (森 健太郎)

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令和4年分確定申告からの線引きはどこに?

令和4年分の確定申告から、会社員の副業収入についての新たな線引きが示されました。

国税庁が2022年8月に行った「所得税法基本通達の改正案に関する意見の公募」(パブリックコメント)では、副業収入が300万円以下の場合は事業所得ではなく雑所得とするという改正案が発表されたのです。

通常、国税庁のパブリックコメントに対する提出意見数は多くても数十件程度ですが、今回は7059件もの意見が寄せられました。この異例の反響を受けて、10月には国税庁が次のような通達を発表しました。

「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかにより判定する」ことを原則としつつも、帳簿保存がない場合は雑所得(=帳簿保存がある場合は事業所得)と判定し、収入金額300万円を超えるかどうかにはこだわらないとしたのです。

では、今後は帳簿保存があれば事業所得としていいのでしょうか。事業所得で申告すれば、事業が赤字の場合、給与から天引きされた源泉所得税を取り戻すことができるなど納税者にメリットがあります。

実は、話はそう単純ではありません。

令和4年分の確定申告から、会社員の副業収入について事業所得と雑所得の間にどのような線引きがなされるのか、税理士の立場からご説明したいと思います。

事業所得で申告するメリット

そもそもこれまで、納税者は事業所得として申告したいのに、なぜ国税側はそれにストップをかけてきたのでしょうか。

副業収入が事業所得であれば、赤字が出たときに給与所得など他の所得と損益通算が可能であり、給与から天引きされた源泉所得税を取り戻すことができます。

また、青色申告にして帳簿をつけ、電子申告などの要件を満たすことで最大65万円を所得から控除できます。

他にも、家族に給与を支払うことができる(青色事業専従者給与)、30万円未満の減価償却資産の特例を適用できる、損失を3年間繰り越せるなど税制上の特典を受けられます。

一方、雑所得の場合は赤字であっても損益通算はできず、青色申告の税制上の特典は受けられません。

これまで、生活の資本となる収入が給与の場合(主に正社員)の副業収入は、事業所得か雑所得か明確な基準がありませんでした。納税者は事業所得として申告し様々なメリットを享受したいと思う反面、国税側としては、判例などに基づき事業として認められないものについて、事業所得として申告することは過度な節税であるとし、納税者と国税側で度々トラブルとなってきたのです。

国税庁がパブリックコメントを実施

国税庁としてはこのような状況を踏まえ、2022年8月に冒頭のパブリックコメントを行いました。パブリックコメントとは、国の行政機関が政令や省令等を定めようとする際、事前に広く一般から意見を募ることです。

「副業収入が300万円以下の場合は事業所得ではなく、雑所得とする」という線引きは、事業所得と雑所得の判断が明確になるとの意見があったものの「どのような所得が主たる所得に該当するか不明」「300万円という基準の根拠が不明」といった反対意見が多く見られました。

収入が300万円以下の場合、事業所得として申告できないとなると、初年度に多額の設備投資を行った場合に損失の繰越ができないことになり、筆者としてもこの線引きには疑問が残ります。

国税庁は10月7日にパブリックコメントの結果と同時に、その反響を踏まえて内容を見直した通達を公表しました。

今回の通達改正では「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかにより判定する」ことを原則としつつも、次のようななお書きがなされました。

帳簿保存がない場合は雑所得(=帳簿保存がある場合は事業所得)と判定し、収入金額300万円を超えるかどうかにはこだわらないとされたのです(帳簿保存がない場合でも収入金額が300万円を超え、かつ事業として認められる事実がある場合は事業所得となります)。

これを読むと、今後は帳簿保存があれば事業所得となり、事業所得としてのメリットを享受できると思ってしまいそうですが、それは早計です。

帳簿保存だけでは事業所得として認められない

国税による法令通達解釈のなかでは、次のような記述があります。

(注)その所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存している場合であっても、次のような場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとなります。

1. その所得の収入金額が僅少と認められる場合
例えば、その所得の収入金額が、例年、300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満の場合は、「僅少と認められる場合」に該当すると考えられます。
※「例年」とは、概ね3年程度の期間をいいます。

2. その所得を得る活動に営利性が認められない場合
その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合は、「営利性が認められない場合」に該当すると考えられます
※「赤字を解消するための取組を実施していない」とは、収入を増加させる、あるいは所得を黒字にするための営業活動等を実施していない場合をいいます。

(引用:「「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説)国税庁

このように、

(1)概ね3年程度の期間、収入金額が300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満の場合、収入金額が僅少と認められる

(2)例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合、営利性が認められない場合に該当する

とし、このような場合には帳簿保存があっても、事業として認められるか個別に判断することになると記載されています。

つまり、帳簿保存だけで事業所得と主張するには弱いのです。

本格的に副業に取り組んでいるかが重要

本格的に副業に取り組み、事業拡大を目指しているケースでは、たとえ収入金額が300万円以下であっても、帳簿保存をしていれば事業所得として認められると思われます。今後事業を始めようとしている人はホッとしたのではないでしょうか。

しかしながら、さほど副業に力を入れていないにもかかわらず事業所得として申告し、毎年、給与から天引きされた源泉所得税の還付を受ける確定申告を行っている場合は問題となりそうです。

副業の売上拡大とともに利益を生む体質にするといった、副業への本格的な取り組みが大切になってくるでしょう。

森 健太郎 税理⼠ ベンチャーサポート税理⼠法⼈ 梅田オフィス 代表税理⼠
1977年⽣まれ、奈良県出⾝。神戸大学経営学部市場システム学科卒業。大阪の電機メーカーに就職後、27歳で税理士業界に転職し、大阪の個人会計事務所にて2年間勤務。その後、2006年にベンチャーサポート税理士法人へ入社。在職中に税理士資格を取得し、現在は梅田オフィスの代表税理士を務める。起業家支援を専門とし、業界歴15年以上で数百社の会社設立と会計業務を支援。創業時の融資や節税を得意としている。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年12月7日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。