検察は悪質な既得権益を守るために新ビジネスを潰す

カルロス・ゴーン、江副浩正、堀江貴文、村上世彰といった有名経済人が逮捕された事件を振り返ると、それまで誰も逮捕や起訴されたことがない罪状で、しかもそれまで使われたことがないような捜査方法で、社会的に地位があり評価もされているような人が司法の餌食にされている。

堀江貴文氏(左)とカルロス・ゴーン氏 Wikipediaより

検察の「大ヒット」と世間でいわれるような事件は、隠れていた不正を暴いたというより、功名心もあっての法解釈の実質変更が多いのだ。

そういう悪代官的司法の問題を『日本の政治「解体新書」: 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)で糾弾した。

ゴーン逮捕の容疑は「法廷ではなく役員会で扱う問題のように見える」「(ゴーンの意見陳述は)検察が明らかにしている証拠よりも説得力があった」(ワシントンポスト)と報道されたように、海外では〝外国人だから逮捕された〟という印象を持たれている。事実、金取法は粉飾決算などの防止が目的で、報酬について日本人役員が問われた例はない。

日本人が海外で、現地の人が問われたこともない罪状で逮捕されたら、どれだけ怒るだろうか。まして、「日本経済の救世主」とまでいわれた著名外国人経営者をターゲットにしたのでは、外国人の有能なビジネスマンは日本では怖くて仕事することを躊躇しかねない。

ゴーン氏の報酬隠しに関与したとして、金融商品取引法違反罪に問われていた元代表取締役グレッグ・ケリー被告は、懲役6月、執行猶予3年(求刑・懲役2年)の判決が東京地裁から言い渡されている。しかし、ほとんどの容疑については無罪であった。

「司法取引」に合意した元秘書室長の証言については、司法取引の当事者という「特有の事情」があり、検察官の意向に沿う危険性があると指摘された。

この判決の意味していることは何だろうか。はっきり言って、人質司法、99%以上有罪の恥知らずの司法制度を日本としては自己否定できないものの、アメリカからの司法批判を心配して、実質「無罪」に近い扱いにしたということだ。

エマニュエル駐日米大使は地裁判決を受け、「法的手続きが終了し、ケリー夫妻が帰国できることに安堵している」「ケリー家にとって長い3年間となったが、この件には区切りがついた」「ケリー家の今後が、喜びと幸福に満ちたものになるよう祈ってやまない」と述べ、ケリー被告の地元テネシー州選出の上院議員を務めるハガティ前駐日大使は、「グレッグは米経済界では決して考えられない状況にさらされてきた」「グレッグは無実だ」と主張し、空港で出迎えるとした。

沖縄の基地問題で、地位協定のドイツ並みへの改定を日本政府は望んでいるが、なかなか実現しそうもない。こんな人質司法を続けている限りは、アメリカ政府が受け入れないのは当然だろう。

リクルート事件でも、それまでとくに悪いことと認識されていなかった未公開株の割り当てという行為を罪に問うて、リクルートという新しいビジネス・モデルの創業者を経済界から追放した。

ホリエモンのライブドアや村上ファンド、さらにはウィニー事件(ファイル共有ソフト「Winny」に絡む著作権法違反を問われたが無罪に)でもまったく同じ様相を見せる。つまり、新しいビジネス・モデルを構築して儲けている企業が誕生して、既得権益にとって脅威になったり怨嗟の的になったりすると、検察は立件することで新しい悪を懲らしめたということにして、それが手柄になると思っているようだ。

出る杭は打たれる日本社会の宿痾はこうして増幅される。こうしたことが繰り返されてきたことが、日本では新しいベンチャーの発展が遅れたり、起業家の社会的地位が毀損されたりと、日本経済低迷の大きな原因になっている。