ビックリ10大予想の前に、こんなサプライズで頭の体操はいかが?

ブラックストーンのバイロン・ウィーン副会長といえば、年始にビックリ10大予想を披露することで知られます。2022年版は米株に慎重な予想を展開し、概ね的中させました。継続は力なりを体現し37年も続けていらっしゃるのは、頭が下がりますね。

Byron Wien氏 Blackstone HPより metamorworks/iStock(編集部)

一方で、年末は各金融機関が来年見通しをリリースする時期でもあります。

そのうち、英系のスタンダード・チャータードとシンガポール系のサクソバンクの2社は、それぞれウィーン氏に負けずとも劣らない衝撃的なリスク・シナリオを提供してくれています。

まずは、スタンダード・チャータードが公表した”2023年版:金融市場サプライズ”からご紹介しましょう。スタンダード・チャータードのヘッド・オブ・リサーチ兼チーフストラテジスト、エリック・ロバートソン氏によれば、これらは発生する可能性がゼロではなく、市場が過小評価しているリスクだといいます。ただし、それぞれの事象は必ずしも連携したシナリオではないため、全て整合的とは言えません。気になる内容は以下の通りで、→以下は筆者のコメントです。

1) FRB、2023年に200bpの利下げを断行
→仮に5.0%へ引き上げられた後ならば、3.0%まで利下げするシナリオに

2)ナスダックは6,000に急落へ、足元から50%安に
→足元、マイクロソフトによるゲーム大手アクティビジョン・ブリザードに買収を米公正取引委員会(FTC)が阻止したように、反トラスト法違反をめぐりIT業界への逆風が強まるだけに、ナスダックは来年もアンダーパフォームするリスクあり。

3)ユーロドルは1.25ドルへ上昇、政治的安定と景気回復が恩恵に
→ユーロ高にはウクライナ戦争が平和裏に集結する必要がありそうだが、果たして?

4)ブレント原油は1バレル40ドル割れ
→ブレント原油先物は足元80ドル付近であるため40ドル割れならば50%の急落が想定され、世界的な景気後退に陥っているリスク大

5)ドル/人民元は6.40までドル安・人民元高に
→ゼロ・コロナ政策の撤廃と経済正常化によるペント・アップ需要が起爆剤か。

6) 食料品価格が暴落、デフレ懸念が高まる
→ 国連食糧農業機関(FAO)によれば、11月の世界食料価格は8カ月連続下落していた。

7) 暗号資産と関連企業の崩壊が広まり、金先物価格は30%上昇へ
→金先物価格は2,250ドルと過去最高値更新を予想、ビットコインの急落を合わせれば世界的な景気後退に伴うリスク選好度の低下を示唆。

チャート:NY金先物価格、8月初め以来の水準へ戻すも1,820ドル付近で上げ渋り

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出所:Tradingview

8) 共和党がバイデン大統領を弾劾へ
→共和党が下院で多数派を奪回するため、民主党下院がトランプ前大統領を弾劾したように目には目をといった展開は概ね想定内。

サクソバンクのヘッド・オブ・コモディティ・ストラテジーのオル・ハンセン氏が送る”奇抜な2023年見通し”は、こちらをご覧下さい。=以下は、それぞれのシナリオに関する補足説明です。

1)エネルギー問題に1兆ドル規模の投資を行う億万長者連合が誕生
=大手テクノロジー企業など、エネルギーインフラ整備に向けコンソーシアム”サード・ストーン”を設立へ。その規模は、人類最初の原子爆弾を開発したマンハッタン計画以降、最大の研究開発水準となる見通し。コンソーシアムに参加する企業の株価は上昇へ。

2)マクロン仏大統領が辞任
=マクロン大統領率いる中道の与党連合は2022年の仏議会選挙で安定過半数である289議席を大きく割り込む245議席を獲得するにとどまったため、経済改革推進が進まず、2023年初めに辞任へ。ユーロドルの下落を招く。

3)中央銀行がインフレ抑制に失敗し、金先物価格が3,000ドルまで過去最高値を更新へ
=2023年も物価高止まりは継続。Fedの量的引き締めは米債市場の売り圧力を強め、結果的に量的緩和の再開を余儀なくさせる。さらに、中国はゼロ・コロナ政策の脱却を決定、中国のほとばしる需要を支えに商品先物価格が急騰し、物価を一段と押し上げ。Fedの緩和姿勢への転換もあってドル安を招き、金先物は高騰する。

4)EU軍の創設
=ロシアのウクライナ侵攻は、欧州を1945年以来で最大の戦火に巻き込んだ。さらに、2022年の中間選挙後は共和党が右派が一部躍進、トランプ前大統領が再出馬する可能性もあって、米国頼みの安全保障から脱却する必要に直面、2023年EU加盟国すべてが2028年までにEU軍の設立で合意する。EU軍の創設は、欧州防衛関連のETFなどの買いにつながる。

5)2030年までに全ての食肉生産を禁止する国現る
=欧州を中心に気候変動への優先順位の高い政策を展開し、それは食料にも及ぶ見通し。2050年までに排出量をネット・ゼロにするという目標を達成するためには、現在のOECD諸国の平均が約70kgから、肉の消費を1人当たり年間24kgへ減少させるべきとの試算もある。従って、2045年までにカーボンニュートラル達成を掲げるスウェーデンのほか、2050年に達成を目指す英国、フランス、デンマークなどが導入する可能性がありそうだ。代替肉関連銘柄が上昇する半面、伝統的な食肉メーカーの株価は下落する。

6)英国がBrexitを巻き戻しEUに復帰する”UnBrexit”の国民投票を実施
=スナク首相は、トラス前政権の過ちから学び、厳格な財政健全化計画に踏み切り、結果、英国は深厚なリセッションに陥る。失業率の急上昇と赤字急増を招き、スナク退陣論が高まるなか、イングランドとウェールズの世論調査で65歳以上の3分の2近くが離脱に投票した結果が見直され、Brexitの是非を問う声が広がる。ポンドドルは年初こそ下落するが、国民投票実施の道筋が開くと同時に買い戻される。

7)物価上昇抑制のための価格統制が広範に導入へ
=ロシアによるウクライナ侵攻などを受け、物価高を抑制すべく2023年には消費者向けの暖房や電気料金など上限設定などの支援策を超え、物価統制を導入する。米英では、設立された物価・所得に関する国家委員会のようなものが設置される可能性も。ただし、価格統制はさらなるインフレを引き起こし、生産意欲の減退や生活水準の低下、資源や投資の配分不均衡を生む。一連のシナリオは、金先物価格3,000ドル到達見通しにつながる。

8)中国、インド、OPECプラスがIMFを脱退、新たな準備資産で取引することに合意
=国国際貿易の3分の1以上、世界の外貨準備の約6割はドルが担う。ロシアのウクライナ侵攻後、米国が制裁を科す国々は困難に直面。米財務省や他の米国の同盟国によって凍結命令の対象となるリスクも抱えてしまった。これを受け、被制裁国からエネルギーを輸入する中国を含め、新たな準備資産の必要性で一致。中国の人民元は国境を越えた資本統制を放棄する気はないことも、新たな準備資産の誕生理由に。ドル安と米債利回りの上昇を招く。

9)ドル円は200円へ上昇、200円を下限とした管理相場制を導入
=2022年にFRBの利上げに対し緩和政策を維持した結果、2023年に再び円売り圧力に瀕する。再び介入で対応するも、外貨準備の半分以上を使い果たした後で介入規模を縮小。ドル円が180円を超えたタイミングで、日本はドル円の上限(円の下限)を200円に設定することを決定する。併せて、日銀は国債を全て買い取りへ。これにより、日本の公的債務は100%まで減少、日銀は政策金利を1%へ引き上げ、イールド・カーブ・コントロールを解除する間に10年債利回りは2%へ急伸する。日本の輸出が押し上げられるほか、海外に散らばる日本の貯蓄が税制優遇措置で本国へ回帰することもあり、日本は徐々に安定軌道へ回帰し、新たな危機対応モデルを確立する。ドル円は200円に上昇した後、年末にかけ下落する。

チャート:ドル円は10月21日の大規模介入により、151.94円で一旦ピークアウト

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出所:Tradingview

10)OECDが租税回避の禁止を決定、プライベート・エクイティが消滅
=ロシアによるウクライナ侵攻などを経て、2023年に国家安全保障の視点は産業政策と国内産業の保護にますます内向きになる。防衛費やエネルギー転換へ向けた投資へ向けた資金を調達すべく、政府は利用可能な全ての潜在的財源を探し、結果的に租税回避地を利用した税逃れ阻止に動く。PE関連のETFは50%以上も急落する。

――いかがでしたか?スタンダード・チャータードとサクソバンクの共通リスクシナリオは、金先物の過去最高値更新でした。足元で金先物価格はFedの利上げ幅縮小見通しを受け底打ちの兆しをみせており、2023年に上昇の流れが続いてもおかしくありません。

日本人にとっては、悪夢のシナリオはドル円の200円突破でしょう。サクソバンクは輸出の追い風になると指摘しますが、11月の経常収支が赤字に転じたように日本の稼ぐ力が減退するなかでは、成長促進剤になるとは到底思えません。

Fedの200bp利下げ予想は、実際の引き下げ幅は別として実現してもおかしくありません。現時点ではインフレ抑制姿勢を堅持し高金利の維持を掲げますが、パウエル議長率いるFedは2021年11月のインフレ重視への転換を含め機動的ですから、決してないとは言い切れないでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年12月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。