夢の核融合エネルギー

「地上で太陽を作り出す」

簡単には言葉の意味が理解できないが、米国の国立点火施設「NIF」があるローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)を、最初に訪問したのはもう30年になる。数百メートルにも渡る金属箱のようなものが横たわっていたのを覚えている。レーザーが旅するものだと言われた。当時も今も、全体では野球場くらいの巨大施設だ。

それからさらにその30年前、つまり今日からいうと60年くらい気が長い基礎研究が継続されている。

筆者の母校、カリフォルニア大学バークレー校で、「プルトニウム」を発見したグレン・シーボーグ博士の長時間対談をやった時のことだ。

シーボ―グ博士にも「NIFも取材したら」と言われた。

振り返れば、当時より悪い状況になっている現在の核拡散問題。核開発に固執する北朝鮮どころか、日本でも一部に、現実にはあり得ない独自「核保有論」まで出る時代になった。

筆者は核廃絶問題で、キッシンジャー、シュルツ、ペリー、シュラシンジャーなどの国務長官、国防長官経験者と長時間対談した。前者3人の廃絶論者も「北朝鮮、イスラエル、インド、パキスタンが廃絶に応じるか、応じないだろう?」「米国が廃絶の旗を振っても、それは核拡散・核テロ防止が大きな理由、他国が所持している状態で、一番最初に廃絶などできないだろう?」という小生の問いに、明確な返事は得られなかった。

筆者の父親はヒロシマ被ばく者。日本は、唯一の被ばく国として日本は核廃絶を主張している。しかし岸田総理がいくら「廃絶」を叫んでも、国際社会は耳を貸してくれない。米国の核の傘に守られているので、身勝手な自己矛盾だからだ。

ハンス・べ―テ博士(左)
筆者提供

マンハッタン計画で原爆製造に直接参加したハンス・ベーテ博士など数人にも、人類史上最悪ともいえる悲劇を作り出したため、自然に辿り着く目標「核廃絶」への道を、長時間のインタビュー取材で聞いた。

ほぼ全てのマンハッタン計画参加の研究者が「結果の予想はできたが、あそこまでひどい惨劇をもたらす兵器とは思わなかった。米ソなどの核軍拡競争は、人類のためにならない。抑止があるので、ゼロにするのは無理だが、米ソ数十発、英仏中は10発弱にする努力を全力でするべきだ」などと、筆者に語った。

唯一、例外ともいえる研究者がエド・テイラー博士。ヒロシマ・ナガサキの惨禍以降も、核戦力への依存利用、米国優勢の世界平和を促進した。核融合の世界的な権威のため、水爆を作り出し、さらに宇宙空間での戦略的優位性まで求めた。同じ核融合の権威、べーテ博士が水爆に反対したのと対照的に、テイラー博士は水爆が大好きだった。「核兵器廃絶」などというという言葉は、彼の辞書にはない。

エド・テイラー博士(右)
筆者提供

上記のように、筆者がプルトニウム(PU)発明のシーボーグ博士に、核兵器廃絶可能性を聞いた。博士は「一回世界に登場させたプルトニウムを、世界から無くすことは不可能だ。これはどうしようもないことだ」と真剣な目で語った。その時に彼が使った「de-invention(発明を取り消す)」という言葉が、脳の記憶に鮮明に残っている。

核を利用する兵器には大きく2種類ある。「核分裂」と「核融合」だ。核分裂兵器はプルトニウム(PU)やウラン(U)元素の原子核(陽子・中性子)を利用しており、プルトニウムはナガサキ、ウランはヒロシマで使われた。

核分裂の際、放出される中性子が別の原子核が吸収してさらに分裂、それが継続して分裂がチェーンリアクションのように次から次に起きる。分裂がごく限られた時間内に一定の臨界量に達すると、連鎖反応が持続、莫大なエネルギーになり、それが核(分裂)爆弾になる。

原子力発電の場合は、原子炉の中で前述のようにウランが核分裂をする時、臨界状態を制御・維持、その熱で水を沸かして水蒸気を作り、それでタービンを回して発電する。

「核分裂」とは全く違う、もう1つの「核融合」。核融合だけを利用した爆弾は、現時点ではほぼ不可能とされる。重水素と三重水素を、熱で加速して核融合させる。高温・高圧がまずは必要だ。それを作り出すために、上記の核分裂爆弾、原爆を「起爆剤」として使う。

核分裂爆弾と比べると、水爆は1000倍くらいの威力があるという。

昔、テイラー博士が精力を注いだ。さらに多分ウソだろうが、北朝鮮も一部開発に成功したと宣伝している「水素爆弾」。核分裂爆弾が起爆で必要なため、全く同じ純粋ではないが「核融合爆弾」の典型だ。

「核融合」は「核分裂」と共に、制御は大変、放射性物質の扱いも難しいが、その莫大なエネルギーを上手く使おうという考えは、当然、大昔から存在する。

太陽が常に明るく輝いている原動力。主に重水素と3重水素の2つの軽い原子核が、重いヘリウムと中性子に変わる時に出る莫大なエネルギーだ。原子の中心にある原子核が衝突している部分が太陽に似ている。

だから「地上に小さな太陽を作る」と、筆者も30年くらい前にワシントンンDCとカリフォルニア州で聞いた。大昔からの論考とも聞いた。

そして地球温暖化、カーボンニュートラルなど、ここ10数年の動きよりずっと前のことだ。二酸化炭素を出さないクリーンエネルギーとして利用できないか、米国は研究を進めて、膨大なエネルギーと資金を半世紀以上注ぎ込んできた。

全て上手くいけば、脱炭素はもちろんのこと、そして一方の「核分裂」利用の原発の危険性から逃れる可能性がある。日本はEUと組んで、茨木県に実験的な施設を建設、試験運転を始めるという。

やはり将来を考えているフランスは、「磁力」利用の核融合炉で、今回話題を呼んだ米国の高出力レーザー利用とは、全く違う。

これも30年近く前だが、筆者は全米にある「国立研究所」全ての訪問取材をした。ライフワークの原爆関連取材だ。ヒロシマ原爆を作ったロスアラモス、双璧で競争相手、ライバルのリバモア(LLNL)、サンデイア、サバンナリヴァー、オークリッジY12、ハンフォード、アルゴンヌ、ブルックヘイブン、フェルミなどなど、フクシマ事故取材もあり、複数回取材した。ロスアラモスでは、内部を深く複数回取材した唯一の日本人ジャーナリストと言われた。

各所で、核兵器はもちろん、核に関すること、核に関係ないこと、ありとあらゆる基礎研究の実態を知った。今回もそうだが、将来どうなるか分からない、実現するかも分からない、そんなことを数十年継続している。驚くべきことだ。

国家核安全保障局(NNSA)はその窓口で、米エネルギー省内でも核関連を全て仕切っている。

そこの友人がつい数日前、教えてくれた。半世紀以上、努力している核融合炉NIFの実験で大きな前進があったというものだ。

米エネルギー省、核融合技術で画期的進展を発表、投入量以上のエネルギー生成に成功(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

訪問した30年くらい前には、夢物語で、いつ可能になるか、実験が成功するか不明と言われていたが、今回の成功は、小さな一歩、だが同時に大きな一歩とも言える。

実験では、192本の巨大レーザーで凍結水素入りの容器を破壊した。放出したエネルギーと比べて爆破により得られたエネルギーが大きかった。つまり、差引勘定でクリーンエネルギーが生成できた。

しかし実用にはまだまだ大変な道のりがあると、NNSAの友人に言われた。だが貴重な一歩。米国の基礎リサ―チ、基礎研究は日本では想像できないほどのスケールがある。今回の核融合の研究だけでなく他の分野でも、長時間やっても失敗の可能性もあることもやっている。失敗を恐れていては、重要な基礎研究などできないのだ。