昨日、日本医師会館で「内閣府AIホスピタル」プロジェクトのシンポジウムがあった。この5年プロジェクトは来年の3月末で終わりを迎える。参画するグループが決まったのは2018年秋なので、実質的には4年強だが、12研究機関の発表を聞いていて感慨深いものがあった。私だけではなく、誰もが期待していた以上の成果があがっていると誇らしかった。とは言うものの、今日に至るまでの道のりは平坦なものではなかった。
まずは、私がプログラムディレクターに選ばれた事件??だ。毎日新聞の一面に取り上げられたので覚えておられる方がいるかもしれないが、プログラムディレクター12名のうち11名は“いわゆる”予定候補者で決まった。私だけが予定調和を壊すディレクターだった。選考過程で、東京で実施されたインタビューには旅費は出なかった。
当時、シカゴに住んでいたのだが、シカゴからインタビューを受けるために東京に行った。多くのプロジェクトのリーダーが、形式公募、実は役所(やその背後にいる人たち)の意向で決められていることがこの国の抱える課題だ。無事?(多くの人にとっては無事ではない)に決まった後も大変だった。
無事に決まったあとに、友人たちの協力を得て、私は研究計画書を書き上げたのだが、担当参事官から研究参加機関の選考にはディレクターは参加できない規定だと言われた。規定であれば仕方がないと思ったが、これはこの参事官の出まかせ(はっきりと言えば、大噓)だった。他のプログラムは、プログラムディレクターが選考委員に入っていた。
常識的には計画案を作成した人間が選考の過程に関与しない選考委員会などあるのかと思っていたが(実際は選考委員長の見識の高さに救われた)、こんな幼稚な嫌がらせをされた。すぐばれる嘘を平然とつく、この官僚の精神的幼稚さに呆れるばかりだ。しかし、こんな人に限って、出向元の役所で出世するようだ。日本の闇は深い。
この他にもいろいろあったし、今でもあるが、せっかくの成果にカビが生えるので、愚痴はここまでにして、シンポジウムの最後に行った言葉で締めくくりたい。
「企業が医療現場を知らないままに開発を進めても絶対にうまくいかない。医療現場には、優秀な方は多いが技術的には企業、特に情報系の企業との連携は不可欠だ。そして、いろいろなAI技術を国内で広げるためには、日本医師会という大きな力の協力を得て進めるべきだ。」私が接した日本医師会の方々は、多くの方々が描いているイメージとは全く異なる。
役所よりも、大学の世間を知らない頭でっかちの教授たちよりも、しっかりと、日本の医療の将来を、現場の体験に根差して考えている。特に高齢者医療への問題意識は御用学者よりも、はるかに、はるかに高いのだ。コロナのゴタゴタを見ていても、御用学者の存在が問題となっているのがわかるだろう。
そして、会場では言わなかったが、これに患者グループが参画すれば、日本の医療に革命が起こる。何かを変えて欲しいと永田町や霞が関に訴えても多くの無駄な時間を割くことになると思う。こんな医療にして欲しいと懇願するのではなく、自分が受けたい医療体制を作り上げるために皆で力を合わせることが重要だ。
AIホスピタルプロジェクトの発表を聞いていて、大きな岩が動きつつあると感じた。12チームで動き始めたのだから、100チームが集まれば確実に動く「患者さんにも、医療従事者にもやさしい医療」が!
しかし、情けないことに、今週東京に2回出張しただけで、私の体が悲鳴を上げている。この大きな動きを引っ張っていくリーダーの出現を心から願っている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年12月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。