経営者をサポートする士業と呼ばれる専門家がいます。難関資格を保有する専門家として尊敬を集める一方、同じ資格保有者でも仕事内容や方針、そして能力も当然異なります。「優秀な士業さえいれば潰れずに済んだ会社は多数あった」と語るのは士業向けの経営コンサルタントで自身も士業(行政書士)である横須賀輝尚氏。同氏の著書「会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業」から、コロナ禍に必要なプロ士業の見抜き方を再構成してお届けします。
私がコロナ禍でブチ切れた話
弁護士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士…世の中には「士業」と呼ばれる職業の人たちがいます。こうした士業は、「先生」と呼ばれる職業でもあり、これまで絶対的な存在として君臨し続けてきました。
「絶対的な存在」というのは、例えば弁護士に「慰謝料は取れません」と言われればそれはもう実現不可能なもの。あるいは税理士に「こんなに税金を支払うのですか?」と聞いても、税理士が「そういう決まりですから、期日までに支払ってください」と言えば、もうその税金は支払わなければならないもの。そして、士業への報酬は言われるがままに、どんな金額でも「そういうもの」として支払う。こういう存在でした。
しかし、現在はどうかと言えば、もはや絶対的な存在とは言えなくなってきています。最近では有名ビジネス誌でも「士業の実力差、能力差」が特集されることも増え、実は同じ国家資格を持っているからといって、どの士業に頼んでも結果が同じではないのです。
本記事のタイトルが象徴しているように、士業には大きな個人差があります。士業が「金のなる木」だなんて、もうその時点で噴飯ものの士業もいると思いますけど、仕事をする以上、お客に貢献してなんぼのもの。士業はきちんと選び、きちんと働かせれば、あなたにお金をもたらし、そしてすべての問題を解決してくれます。
世の中的には、「問題解決」が主に思われる士業ですが、使い方によっては、きちんとお金をもたらせてくれる存在なのです。そのあたりを解説していくわけですが、その前に「使えない士業」に依頼していると、こんなことになりますというエピソードをひとつ挙げておきましょう。
できる士業とそうでない士業が2020年のコロナ禍で大変明確になりました。
「コロナ禍の影響で、資金繰りがとうとうヤバい」
「もらえると聞いた助成金が一向に入ってこない」
「人件費を支払いたいが、資金が足りない」
「解雇しないと会社が持たないが、解雇用件を満たせない」
「コロナ禍でテレワークにしたのだけど、労務管理ができない」
「正直言って、このままだと倒産してしまうかもしれない」
こんな状況の会社もあったはず。そんなとき、士業は頼れる存在でいてほしいわけなのですが、そうでもなかった。これは実話です。
コロナ禍で世界中が揺れていた2020年6月27日。私は友人の紹介で、どうしても、どうしても経営の相談に乗ってほしいという経営者の経営相談に対応していました。経営コンサルティングは私の仕事のひとつですが、普段は士業専門のコンサルタントだし、それにまだまだコロナ禍の影響はありましたし、本音を言えばできるだけ人に会いたくない。でも、友人の紹介というのがまた曲者で、義理堅い私は完全防備で都内某所へ。そこで社長から頂いた相談が、前掲のようなものでした。もう切羽詰まっているのか、私の質問を聞く前に早口でまくし立てるまくし立てる。
冒頭3分。これはだいぶヤバい状況の相談を受けてしまったと自分の性格を後悔しつつも、ひとつひとつの問題を解決するため、ヒアリングを実施。ふむふむ、なるほど。会社の状況はなんとなく理解できた。でも、もう6月も終わるし、本当にコロナ禍の影響で経営が傾いたはずなら、3月、4月、5月、6月と約4ヶ月間にやれることはもっとあったはず。なぜ、ここまでひどいことに…?と、そこで言いたいことが全部言えたのか、私からある質問をしました。
その回答に、私はブチ切れ。とっさに言っちゃいました。
「そんな税理士と社労士、即刻クビにしてください。」と。
有事に逃走した「似非」専門家たち
私がした質問はこれです。
「社長、社長の会社には顧問税理士と顧問社労士がいるわけですよね?彼ら彼女らは、このコロナ禍で何をやってたんですか?」
いま思い出すだけで腹立たしい。税理士は「資金調達は専門でない」。社労士も「助成金は別料金」で情報すら出してなかったんだとか。つまり、この有事に逃走してたんです、顧問士業が。新型コロナウイルス感染症は、世界的な災害のようなもの。当然、日本だって例外じゃありません。
普段から資金繰りに苦しんでいる中小企業が倒産してしまう可能性があることは、専門家じゃなくても分かるもの。こんなときに顧問先に貢献しないなんて、何のために普段顧問料をもらっているのか、本当に理解に苦しみます。最終的に、社長には別の税理士と社労士を紹介。これであの会社も立ち直るでしょう。私が紹介したのは「プロ士業」ですからね。
中小企業は、有能な「プロ士業」がいれば、倒産することも社員を解雇することもなかった
「士業」そのものの説明をあえて深くする必要はないでしょう。訴訟・法律問題なら弁護士。税金なら税理士。社会保険・労働保険の専門家は社会保険労務士。許認可なら行政書士。登記なら司法書士。特許商標なら弁理士。これに加えて、資格の有無を問わない補助金、資金調達のプロの存在。
でも、「士業」だからといって、全員が同じ能力を持っているわけじゃないんです。そりゃ最低限の知識はあります。どんな士業でも資格を持っているわけですから。ところが、違うんです。士業によって、レベル差がとんでもないというのは、案外知られてないことなのです。普段は、なかなかこの違いに気づくことができません。安定的に経営ができていれば、士業の仕事は「手続き」くらいのものですから、ボロも出にくい。
ただ、今回はその「差」が出ちゃいました。新型コロナウイルス感染症によって、企業はこれまでにない自粛、経営難に追い込まれました。そんなとき、本当に頼れる士業やコンサルタントがそばにいたら、潰れることはなかったのです。
例えば、優秀な税理士や資金調達コンサルタントを懐刀として抱えている企業は、このコロナ禍で儲かりました。いや、儲かったと言ってはいけませんが、年商3000万円の企業が年商と同額の3000万円の融資を真水で受けることができたし、中には3億円以上の資金調達を達成できた企業もあります。こういうプロが世の中にはいるのです。
言うまでもなく、なーんにもしてれくなかった税理士は即刻契約を解除すべきです。その顧問料、無駄です。
もうひとつ例を挙げれば、社労士の問題があります。今回のコロナ禍で雇用調整助成金というのが一気に注目を浴びました。雇用調整助成金、略して「雇調金」と専門家は呼びますが、雇用が維持できなくなり、休業させなければならなくなった場合などにその補償をする、そんな内容の助成金です。
最終的に、様式の簡素化などひと悶着ありましたが、2020年4月の雇調金対応がもっとも大変でした。当然、コロナ禍なので情報は錯綜し、厚生労働省や労働局の電話はパンクし、激務の中でこれを担当した社労士には頭が上がりません。顧問先がなんとか雇用の維持をさせようと努力している中、それを助成金手続きで支える社労士。これこそ、企業が求める社労士の姿です。
ところが、ところがです。「助成金は専門外なので」って逃げた社労士もいっぱいいたんですよ。中には雇調金の情報すら顧問先に出さない事務所もあったとか。通常時はわかりません。事務所の経営戦略的に、あえて助成金業務を行わない。そういう事務所もあります。でも、でもです。今回のような有事に、「うちの事務所はやらないので」って言う選択肢あると思いますか?少なくとも、同業者間でなんとかやれる社労士を探すべきだっただろうし、少なくとも情報は出すべきです。それをやらない社労士もいました。
国難とも言われたコロナ禍に、「専門外」て。その社労士も、顧問料の無駄です。もし、泣く泣く解雇や退職勧奨された社員がいたとして、それは優秀な社労士がいたら回避できたかもしれません。もちろん、助成金だけの話ではなく、労務問題、労務管理も同じ。コロナ禍で注目されたもののひとつに「テレワーク」がありますが、優秀な社労士がいれば、社内規程もスムーズにつくれたし、社労士の指導によるテレワーク実施によってかえって生産性を上げた会社もあります。
だんだんお分かりいただけましたか? 世の中には、単なる「士業」と「プロ士業」がいるのです。
横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年12月19日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。