今まで以上に重圧が伸し掛かっていたアルゼンチン代表
アルゼンチンがワールドカップで優勝した。国では選手は英雄として迎えられた。12月20日は首都で選手のパレードが予定されていて国を挙げての休日となった。
アルゼンチンのサッカーはブラジルと同様に国民に喜びを与える為の代表スポーツだということ。それを選手の一人一人が自覚しているということだ。
それ故に、今回優勝していなければ、逆に裏切り者として冷遇されていたであろう。
今回のアルゼンチンは、これまでの代表とは趣を異にしたチームとなっていた。ひとつは、メッシ選手が尊敬しているアイマルール・ヘッドコーチらのアドバイスもあって、メッシ選手がプレーしやすい選手で囲んだことだ。そしてもうひとつは、メッシ選手自身がチームのリーダーとしての自覚を固めてからワールドカップに臨んだということだ。
その発端となったのは、2021年11月17日の対ブラジル戦で、0対0の引き分けでアルゼンチンがワールドカップへの出場権を手にした日であった。
その日は、ワールドカップで最も若い代表監督のリオネル・スカロニ氏(44)にチャンピオンにならねばならないという重圧がより一層伸し掛かった最初の日であった。
スカロニ監督は、国民からのチームへの期待がこれまで以上に強いことを肌で感じていた。アルゼンチン政府からして今年のインフレ100%の国を立て直すにはワールドカップで優勝することだと期待していたほどであった。
国民の間でも貧困層が急増している。景気の回復にはチームが必ず優勝する必要があると望んでいた。チームは国民に喜びを与えねばならない使命感をより一層感じていたのである。これらのことが監督にひしひしと伝わって彼により重圧として伸し掛かっていた。
監督はワールドカップで敗退した時の惨めさを知っていた
スカロニ監督はワールドカップで敗退した時の惨めさを経験した人物であるが故に、今回のチームを絶対に優勝させねばならないという重圧に自らが押し潰されるような感覚であった。
彼は2006年の対ドイツとの準々決勝でPK戦で負けて密かに帰国せねばならなかった経験者のひとりだった。そのことから、今回、優勝しなかった場合の惨めさは想像を絶するものだという予感をもっていた。
そんな不安に包まれている中、ワールドカップへの出場が決まった正にその日のことだ。スカロニ監督は、自身が経験した惨めな思いをメッシ選手に語ったのであった。それに対して、メッシ選手は「監督、全てうまく行くはずだ。もしそうならない場合でも、みんなでそうなるようにするから」と語って彼に安心感を与えたのであった。(youtubeの記者会見から引用)。
この言葉の中に、メッシ選手がチームのリーダを自覚をしていることを感じ、スカロニ氏は不安を取り除くことができたのである。そして、「優勝できる」と手ごたえを感じるようになったのである。
だからこそ、スカロニ監督は勝利の記者会見の席で、今回優勝することができたのは、メッシ選手がチームのリーダーとして活躍したからだと語った。そして、今大会が最後の参加となるであろうと噂されているメッシ選手が次回の大会でも参加できるように、背番号10番は彼のために温存することを表明したのであった。
短期間の大会で優勝するには、傑出した得点力のある選手がチームにいることが必須条件だ。そしてその選手が自信をもって試合に臨むことがチームを優勝させるための絶対条件だ。
今回のアルゼンチン代表はメッシ選手に全幅の信頼を寄せ、彼の指揮のもと忠実に動く選手を彼の周囲に配置したのであった。