今、アメリカは急速に人口減少へ近づいている

黒坂岳央です。

アメリカの月刊雑誌メディア・The Atlanticに「Why U.S. Population Growth Is Collapsing」という衝撃的なタイトルの記事が掲載された。同記事によると、アメリカの人口増加は着実に鈍化を続けており、直近は2年連続で「史上最低」を更新したという。この減少は今のところ留まる兆しがなく、長期的には人口減少へと転じる可能性も否定できない。

「日本は人口減少、少子高齢化。アメリカは人口が増え続け未来と希望に溢れている」という印象を持っている人も多いのではないだろうか。だが、その実態は、多くの日本人が持っているアメリカへの印象とはかなり異なるものだ。今、アメリカで何が起こっているのか?記事を一部翻訳しながら考察したい。

tampatra/iStock

着実に鈍化する米国の人口増加

アメリカ国勢調査局のデータによると、2020年に米国の人口増加ペースは歴史上最も鈍化し、さらに2021年はその記録を塗り替えてしまったという。だが、これはパンデミックという特異な状況による一時的な現象ではない。人口増加の急減の兆候は、すでに10年前から見られていた。2010年代には早くも人口動態の停滞があり、2000年は320万人増加していた人口は、2011年から2017年まで毎年200万人の増加に留まった。さらに2020年は110万人と急減し、2021年はなんと39万人増加という記録的な数値となっている。

「アメリカは日本と違って人口増が著しい」と評される事が多いが、わずか10年で増加数は200万人→39万人になったのだ。減少ではなく、増加しているとは言えこの数値のインパクトはかなりのものではないだろうか。

米国の人口増加減少の謎については、次のパラグラフで解き明かしたい。

米国の人口増加を鈍らせた2つの理由

同記事によると、米国の人口増加を鈍らせた主要因は2つあるという。1つは病死、もう1つは移民の減少である。

病死については言うまでもなく、COVID-19だ。このパンデミックは2年間で100万人近くのアメリカ人を減らした。死者の多くは2021年に集中しており、米国の多くの郡で「死亡数が出生数を上回るケース」は過去最高を記録している。これほど幅広いエリアで人口が減少したことは、戦争を除けばアメリカの歴史上初めてのことだ。数字を並べることで、COVID-19の影響がいかに凄まじかったかが分かる。しかし、問題の本質は別にある。仮にこの統計上の死者をゼロに変えたとしても、依然、米国の人口増加率は史上最低に近かったという事実は見過ごされがちだ。

移民減少のインパクトはCOVID-19以上に大きい。2016年時点の米国への純移民は100万人を超えていた。しかし、その後75%減少し、2021年は25万人を下回った。この理由はパンデミックによるロックダウンで説明できるように思える。仮にそうであれば、これは一時的な減少にすぎず、杞憂と考える人もいるだろう。だが、それはあくまで理由の一部にすぎない。「米国の経済鈍化と自国の経済成長により、米国は移民から見てかつての輝きを失った」という分析だ。多くの日本人が抱く「移民」についてのイメージはチープな単純労働の担い手というものだが、それは違う。「米国にとって移民とは、地政学的なチートコードである」とはInstitute for Progressの共同設立者であるケイレブ・ワトニーによる移民の評価だ。移民は画期的な技術、特許、ノーベル賞をもたらし、より具体的にいうなら半導体やAI、量子コンピューターの進歩を促進する存在である。それを具現化した話が、アメリカの10億ドル規模のスタートアップ企業の半分近くは移民の起業によるというデータだ。つまり、優秀な移民の減少は、米国経済や成長にとってネガティブなインパクトを与えるのである。

減少するアメリカの出産数

病死や移民による人口減少鈍化に留まらず、アメリカでは出産数も明らかに減少を続ける。ロサンゼルスでは2001に15万人生まれたが、2021年は10万人を下回った。この流れを変えることができなければ、2030年には50%の減少が見込まれる。そしてそのトレンド転換の兆しは現在のところ、見えないままである。

これら三つ巴のスパイラルが米国から人口増加を急激に鈍化させている。世界経済成長を牽引する最後の砦である、米国が人口減少に転じるタイミングは、我々が想像するより圧倒的に早く到来するかもしれない。

よく言われる話が「日本はダメ。少子高齢化がひどく、未来は暗黒に満ちている。一方で海外はこんなにも素晴らしい」というものだ。しかし世界経済の中心、アメリカでさえ人口増加の急減問題への対応を迫られているのである。「人口が減少し続ける世界」という、人類未踏の地へ本格的に足を踏み入れた時、我々はどう生きるかを真に問われることになるだろう。

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