人権ワールドカップではアルゼンチンは優勝できない?

【出典】リオネル・メッシの広告写真、筆者撮影

GOAT(Greatest Of All Time:史上最高)!

リオネル・メッシを中心にアルゼンチン代表がサッカーワールドカップで優勝しました。ついにメッシが神になった!長年サッカーフリークの論争の的であったマラドーナやクリスチアーノ・ロナウドとのGOAT論争に決着がつき、大団円の幕切れでした。

しかし、皆がメッシの伝説コンプリートでハッピーエンド・・・・だったはずが、アルゼンチン代表の振る舞いが物議をかもしています。

  • 試合後、アルゼンチン選手らはロッカールームで歓喜のダンスを披露、マルティネスはエムバペをロッカールームで容赦なく嘲笑。「1分間の黙とう…死んだエムバペのために!」と発言し黙とう
  • GKのエミリアーノ・マルティネスが、凱旋パレードにおいてフランスのキリアン・エムバペ選手を赤ん坊にみたてた人形を抱く
  • アルゼンチンファンがエムバペの顔写真をつけた棺おけに放火
  • コマンなどのPKを外したフランス選手に対して、はSNSで人種差別的な発言を受ける

などの事態が起きています。

【出典】コマン選手の広告写真、筆者撮影

興奮・熱狂した人の暴走なのかもしれません。過去の経緯などが色々あるでしょうし、エムバペ選手の発言への応酬であったと言われています。多くの人が「暴走するにもほどがある」と思ったほどです。しかし、こうした行動は、いやがらせ、差別表現の一部にも近いものです。ある意味「人権」問題の一種ともいえるかもしれません。開始前から「人権」が話題になったワールドカップで、終わった後も「人権」を考えさせる出来事がPK戦のエピローグでした。

「人権」が話題のカタール・ワールドカップ

【出典】FIFAの旗、筆者撮影

カタールでは、外国人労働者や性的少数者の人権が「問題」になっていました。

第一に、スタジアム建設や地下鉄などのインフラ整備において、インドやパキスタン、ネパールからの移民労働者が多数亡くなりました。バングラデシュ、スリランカからの労働者を含めて2010年から2020年の間に6500人以上と言われています。とても熱い・暑い中、建設現場で仕事した結果とも言われていますし、労災認定やそもそもの契約が反故にされた、酷使されたと状況だとされています。

第二に、LGBTQ+の「人権」についても問題があります。同性愛が法律で禁止され、3年以下の懲役を受ける場合もあるからです。

欧州各国からカタールへの批判が盛り上がりがあり、一方でカタール政府と主催者のFIFAのインファンティノ会長が対抗する形でした。インファンティノ会長は「欧州の人間だが、欧州の人間は道徳的な教えを説く前に、3000年にわたりやってきたことについて今後3000年謝り続けるべき」と発言するほどでした。

オーストラリア代表は選手がVTRにて批判。デンマーク代表は第3ユニフォームまで用意(普通はホーム・アウェイの2着)、ドイツ代表は試合前に口を覆う仕草のアピールなど、サッカー選手たちも反応しました。サッカー選手が声を上げる要因の一つに、欧州のチームにはサポーターが問題意識を持っている。サポーターからワールドカップのボイコットを求める声が出たり、横断幕を掲げたりもしているようです。

人権という価値観のジレンマ

カタール政府は、問題は徐々に改善していると主張しています。人権は「カタール人」にしか認められていないわけで、民主主義的な価値観は未発達・未成熟な社会です。女性やLGBTQの人権も認められていない部分も多いです。

しかし、カタールにはイスラム教と言う宗教や文化があり、固有の歴史があります。西洋のルールでは「人権侵害」な行為ですが、カタールの独自ルールではそうではありません。カタールも国際社会のルールだから何かしら行動はとっていますが、押し付けられていると感じることもあるでしょう。外圧みたいなものと内心は思っているかもしれません。

国際性・普遍性VS地域性・独自性・特殊性、この衝突と分断。

国際性や普遍性を主張しても、それが世界共通の価値観にはなっているわけではありません。「人権」という価値を民主義的な価値観が定着していない国・社会に押し付けてしまうと、その国・社会の独自性を踏みにじってしまうかもしれません。圧力をかけると、相手が意固地になって、少しの改善も進まなくなってしまうかもしれません。

しかし、地域性や独自性や特殊性を尊重しすぎると、内政干渉と言う対抗言論にひよっていると、非人道的・残虐な行為、人権侵害の状況においても声を上げられなくなってしまいます。人権被害で苦しむ人が救われません。

本当に難しいところです。このジレンマは世界、いや地球上の人間社会を覆っています。

真の王者になれ!ラ・アルビセレステ(愛称:白と水色)

国際社会でこの問題を提起できる可能性があるのは、選手、協会、スポンサー、政府など。特に、スポンサー企業はSDGsを主張していますが、この事態を前にそれなりの態度を示して欲しいものです。とはいえ、大事なのは一方的にある価値観を主張し、振り下ロして批判することよりも、相手の立場に立って事情を理解してあげて、少しづつ問題解決につながる、皆がわかり合えるコミュニケーションをとっていくべきだと思います。

サッカーは闘いでもあります。厳しくやられたらやり返すのかもしれませんし、プレーヤーが興奮してやりすぎる気持ちはわかります。しかし、スポーツマンシップを毀損する、荒い、粗野な、欲望むき出し、幼い行動は文明人とは言い難いものです。

サッカーは優勝しましたが、アルゼンチンは人権では優勝とは言えないでしょう。真の王者になれるよう、メンバーがどう王者としてのモラル溢れる行動を示してくれる日を期待しましょう。