日本漢字能力検定協会は、漢字一字で世相を表す”2022年の漢字”として”戦”を選出しました。
ロシアによるウクライナ侵攻の他、北京冬季五輪やサッカーのワールド杯などスポーツの熱戦を受けて、22万3,768票を集めた結果です。
では、英語圏の方々にとっての”今年の言葉”とは何だったのでしょうか?代表的な英語辞典が選んだ言葉をご紹介していきましょう。
〇オックスフォード英語辞典→”Goblin mode(ゴブリン・モード)”
今年、オックスフォード英語辞典は、日本のように人々の投票によって”今年の言葉”を選出。93%の支持を受けて白羽の矢がたった言葉こそ”ゴブリン・モード”で、「社会的な規範を否定し、悪びれもせず、自堕落で怠惰で、ずぼらで且つ強欲な行動」を意味します。
”ロード・オブ・ザ・リング”好きならお馴染みのゴブリン、そもそもヨーロッパに伝わる気難しく意地の悪い小人の精霊のことですよね。ここから転じて、経済正常化が著しい現状で「家に引きこもって、自分勝手に過ごすこと」の意味になったり。
使い方としては「今日はワインにビール、チーズやポテトチップスをベッドに大量に持ち込んで、ゴブリン・モード」といった感じでしょうか。SNSでキラキラした自分を演出することに疲れた現代人にとっても、刺さる言葉だったようです。
画像:今どきの”ゴブリン・モード”が一目で分かるツイート
(出所:Daily Dose/Twitter)
〇メリアム―ウェブスター英語辞典→”Gaslighting(ガスライティング)”
メリアム―ウェブスター英語辞典の編纂者は今年、検索数が前年比18倍に急増した”ガスライティング”を選出しました。ご存知の通り”些細な嫌がらせや、故意に誤情報を流し相手の記憶や認識が誤っていると思い込ませる、精神的な虐待”を意味します。
由来は米国で1938年にリリースされた戯曲「ガス燈」で、物忘れや盗癖を夫に指摘され、徐々に自らの正気を疑うようになった妻を描いたサスペンス・ストーリーですよね。1944年に公開されたハリウッド・リメイク版はイングリッド・バーグマンがアカデミー主演女優賞に輝きました。トランプ前大統領の演説手法として、リベラル派が真実にフェイク・ニュースを織り交ぜる”ガスライティング”と警戒を訴えたことでご記憶の方も多いのではないでしょうか。
画像:イングリッド・バーグマンと言えば、個人的にはやっぱりハンフリー・ボガードの共演が光る「カサブランカ」を推したい
(出所:Chic Bee/Flickr)
〇コリンズ英語辞典→”Permacrisis(パーマクライシス)”
コリンズ英語辞典は今年、”パーマクライシス”を今年の言葉”に掲げました。perma=一定の状態にとどまるとの接頭辞にcrisis=危機で構成される通り、その意味は”長期にわたって続く変わりやすく不安定な状態”を意味します。
ロシアによるウクライナ侵攻で起こった地政学的リスクの増大、広がる供給制約、物価の高騰などといったドミノ効果のごとく次々に変化する不安定な情勢を象徴した言葉であり、日本で”今年の漢字”に”戦”が最多投票された感覚に通じるものがありますね。コリンズ英語辞典のブログでは、パーマクライシスという言葉について「未曾有の出来事から次の出来事へと揺れ動く、めまぐるしい感覚を完璧に体現しており、この先どんな新しい恐怖が待っているのかと暗澹たる気持ちにさせる」と流麗な英語で説明され、印象的です。
いかがだったでしょうか?2022年は多くの国々でコロナ禍からの脱却が進んだ年だったとはいえ、ロシアによるウクライナ軍事侵攻に始まり、中国のゼロ・コロナ政策の継続と混乱、北朝鮮のミサイル発射、さらに中銀によるインフレ抑制を狙った引き締め政策転換など、人々の生活を揺るがす出来事が頻発した結果、物々しい言葉が優勢でした。だからこそ、2023年は”パーマクライシス”という言葉が吹き飛んでしまうような安定の年になることを願わずにいられません。
2022年は筆者にとって分岐点の年となり、独立・起業に至りました。右も左も分からないまま突っ走り、サラリーマンでは知る由もなかった様々な社会の仕組みに目を白黒させつつ、文字通り天手古舞の日々が続いたものです。それでも、ここまで躓かず前進し続けられたのは、皆様の温かいご支援のお陰でございます。どうぞ2023年も、宜しくお付き合い下さいませ。
末筆ながら、2023年が皆様にとって、実り多く幸溢れる年となりますよう、心から祈念致しております。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年12月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。