北朝鮮無人機の韓国侵入が見せた戦争の近未来

悲しい事実だが、人類はいつの時も戦争をしてきた。戦いも騎馬戦から歩兵戦に始まり、銃撃戦、砲撃戦、そして戦闘機が開発され、空中戦が展開されてきた。多くの犠牲者が出た。第2次世界大戦後、大量破壊兵器による核戦争はその寸前までいったことがあったが、幸いこれまで行われなかった。核の抑止力が全面戦争を回避させてきたわけだ。その代わりといっては可笑しいが、無人機による攻撃が頻繁に行われてきた。近未来のロボット戦への伏線かもしれない。

大型無人機「ガザ」(IRIB通信社から)

例えば、ウクライナ戦争では戦車、兵士などが大量に動員され、地上戦が行われ、その後はミサイル攻撃に移り、陸や海からミサイル攻撃が繰り返されてきた。そしてここにきて無人機による攻撃が報告されている。人的犠牲を最小限に防ぐために、無人機、ロボット兵器が今後、戦争で主要な役割を果たすことになるかもしれない。

それでは、戦争で無人機、ロボット兵器が主要な戦争の武器となることで何が変わるだろうか。攻撃する側には人的被害を最小限に抑えられるメリットがある一方、生物・化学兵器、ダーティ爆弾が搭載できる無人機が出撃すれば、攻撃を受けた側に大きな被害をもたらす。地対空ミサイル防衛システムがより高性能となったとしても、数十機、数百機の無人機の集中攻撃を受けた場合、地対空ミサイルも限界だ。

ウクライナ軍は「ロシアからの80発のミサイル攻撃中、70発余りを撃墜した」とその戦果を報告していたが、高価な攻撃ミサイルではなく、安価で小型の無人機、それも大量の無人機による攻撃を完全に防御することは難しく、撃墜率の低下は避けられない。

北朝鮮の5機の小型無人機が26日、韓国領空に侵入したというニュースを聞いた。北朝鮮問題といえば、核トライアド(大陸間弾道ミサイル、弾道ミサイル搭載潜水艦、巡航ミサイル搭載戦略爆撃機の3つの核兵器)が主要テーマだったが、無人機が加わることで、北の軍事力、日韓への攻撃力は飛躍的に拡大することが予想される。

韓国の首都ソウルに姿を現した北の無人機に対し、「なぜ撃墜しなかったのか」といった批判の声が上がっていると聞くが、韓国関係者によると、「戦闘機は無人機の撃墜を避けた」というのだ。その理由は「撃墜した場合、地上で民間人が犠牲になる危険性が考えられた。無人機に化学兵器が搭載されていたならば大惨事だ。そのため、韓国空軍パイロットはあえて撃墜しなかった」という。韓国筋によると、領空内に侵入してきた無人機の場合、撃墜するかはパイロットが自主的に判断する」という。時間が十分ないということもあるが、パイロット以上に無人機の様子を目撃できる立場の者はいないからだ。

5年前、北の無人機が侵攻した時、韓国側は撃墜し、北の無人機を回収して調べたことがある。韓国側によると、「北の無人機は初歩的な技術で製造されていた」という。韓国側はその後、北の無人機を撃墜し、それを回収してチェックしたことはないから、北の無人機の性能を正確には掌握していない。

ロシアは北朝鮮から武器や銃弾などを入手している、というニュースが流れたが、ロシア軍が現在使用している無人機はイラン製が多い。プーチン大統領は無人機の国内生産を急がせている。北朝鮮の無人機がロシア軍のウクライナ戦争で使用されているかは不明だが、完全には排除できない。明らかな点は、ウクライナ戦争がさらに長期化する一方、ウクライナ側が欧米製の最新武器を入手していくならば、ロシア側は自国産だけではなく、同盟国からの重火器入手、無人機の投入を検討することは間違いないだろう。

例えば、イラン製無人機だ。「ガザ」と命名された大型無人機は監視用、戦闘用、偵察任務用と多様な目的に適し、連続飛行時間35時間、飛行距離2000km、13個の爆弾と500kg相当の偵察通信機材を運搬できるという。イスラエルはイラン側の軍事力の強化に脅威を感じると共に、パレスチナのガザ地区のイスラム過激派組織「ハマス」がイラン側の軍事支援を受けてその攻撃能力を強めることを警戒している。

無人機が戦闘で大きな役割を担うことで、戦闘はこれまで以上にコンピューターのウォー・ゲームのようになっていく。ボタン一つで相手側のターゲットを破壊できる。攻撃する側は戦場を目撃しないこともあって、戦場で戦死する兵士の数は減少する一方、無人機による民間人などを含む犠牲者は増加することが予想される。

日本は米国から地対空ミサイルシステム「パトリオット」を購入しているが、北から核弾頭ミサイルだけではなく、化学兵器などを搭載した無人機が大量に襲撃した場合のシナリオを検討しなければならない。北朝鮮からの無人機攻撃という新たな脅威が生まれてきたのだ。韓国領域内に侵入した北の無人機はその夜明けを告げるものだ。

ちなみに、北側が5機の無人機を韓国領域内に侵攻させたのは、韓国側の領空防備体制を調べるという意味合いもあるが、それ以上に性能を向上させた北製無人機をロシアや関心を有する国にオファーするための一種のプレゼンテーションだったのではないか。敵国の領域内に入り、ターゲットを破壊できる高性能の無人機を大量生産する狙いがあるのではないか。

無人機の場合、攻撃ミサイルとは違い撃墜はしやすいかもしれないが、生物化学兵器搭載の可能性がある無人機を容易には撃墜できないから、無人機防御システムは別の意味で難しいわけだ。今回の韓国側の対応をみれば、そのことが理解できる。

無人機は本来、人が入り込めない地域や空間を観察し、撮影し、運送できる目的で開発されたが、全てはデュアル・ユースだ。人類のために貢献する一方、人類を破壊する目的のためにも利用できる。どちらを選択するかは人間の判断にかかっている。無人機の場合も同じだろう。いつものことだが、問題解決のカギは外ではなく、私たち一人ひとりの中にあるわけだ。

2022年は過ぎ、明日から新しい2023年が始まる。「人は如何にしたら良くなるか」という大きなテーマを新年は読者の皆さんと共に考えていきたい。この一年、お付き合い下さりありがとうございました。どうぞ良き新年を迎えられますように。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。