紅白歌合戦化する箱根駅伝:一つの時代が終わりつつある背景

昨日の駅伝。我が母校、青山学院は厳しい戦いを強いられたもののまずまずの結果に収まり、最後に帳尻を合わせてきたのは選手の意地と監督の采配と選手が腐らなかったことだったのかもしれません。その点では優勝が当たり前だった一時期の独走状態よりドラマチックだったと思います。

一方、沿道での応援は沿道住民の皆様と共に各大学の校友会が支えてるところも大きいのですが、コロナがまだ収まっていないこともあり「のぼり」は禁止で校友会への応援依頼もかなり控えめな要請でした。平常時は家族友人を大勢駆り出して応援してほしいという強い要望もあり、沿道の各校友会支部の皆さんは毎年、大変苦労されていると理解しています。

報道によると大会本部が発表した沿道の応援者数は今回が91万人。コロナの20年、21年がそれぞれ18万人、60万人だったことを考えると着実に回復はしています。しかし、個人的には一つの時代が終わりつつあるように感じるのです。それは駅伝ファン層の高齢化であり、若い人はかなり淡泊な点です。

私は母校の現役生と継続的に接点がありますが、少なくともこの10年、駅伝の話を振ってもほとんど反応がないのです。この10年とは母校が湧きに沸いた黄金期です。しかし、盛り上がるのは学生ではなく、卒業生、しかも結構中高年だったりします。

私が駅伝に興味をひかれるようになったのは20数年前、正月にバンクーバーで日本人の友人宅に招かれた時です。「正月は駅伝でしょ」とそこのご夫婦が会話もそこそこにずっとテレビに見入っていたのです。実は私が駅伝をしっかり見たのはその時が初めて。なるほど、レース展開や毎年出場する大学は同じようなところばかりで対抗意識という点では高校野球をもっと濃くした感じでした。

その後、母校の活躍もあり毎年楽しみにしてきたのですが、この3-4年、明らかにそのマインドは落ちてしまったのです。なぜだろう、と考えていたのですが、一つには長さに耐えられないのだと思います。正月ぐらいゆっくりする、寝正月といった感じで、新年の挨拶廻りという時代でもないため、長時間テレビを視聴できる娯楽としては実に都合がよかったのでしょう。しかも一般に視聴率が低い午前中の勝負という点も加味されたはずです。

ではなぜ、若者はそっぽを向いたのでしょうか?2018年のある記事に「駅伝が好き」と答えた人は全体の31.7%に留まるとあります。(「しらべぇニュース」より)更に年代別で見ると60代は49.1%が好きと答えたのに対し年層が下がるごとに比率が下がり、20代になると23.2%しか好きと答えていないのです。

私は往路、復路それぞれ5-6時間という長さだけではないとみています。紅白歌合戦の視聴率は1962年は80.4%、今回は二部制で前半が31.2%、後半が35.3%と着実に下落しています。紅白と駅伝は時間が長いという共通点もありますが、若者がそっぽを向くという共通点もあります。大みそかの夜は各局、裏番組に力を入れた時代もありましたが、それも終わったな、という気がします。つまり観る時代ではないというのがキーワードです。

スポーツは観るものから参加するものに着実に変わったこと、その参加できるスポーツはあまりにも種類が多くなり、絞れなくなったことはあると思います。これは現代社会が成熟している証です。例えば南米のサッカーはなぜ強いのか、その理由の一つはそれ以外に若者が熱狂できるスポーツが少ないからです。南米のサッカーは自分がサッカーをプレイし、観戦もするという相乗効果があります。先進国はそれがだんだんばらけてきた、というのが私の感想です。

昔、取引先のユダヤ人社長とプロアイスホッケーを観戦したことがあります。その時、その社長がこう言うのです。「アイスホッケー、面白いか?俺にはちっとも楽しいと思わない。カナダは寒くてすぐに凍り付くからホッケーが強くなったんだ。娯楽がなかった時の名残だな」と。誘っておいてずいぶんな言い分だと思いましたがあながち間違っていないな、と印象に残っていました。

もう一点はメディアに踊らされた気がします。箱根駅伝は日テレですが、その前日にはニューイヤー駅伝がTBSで放送されてます。それ以外に年末には日本女子大学駅伝、1月15日にも全国女子駅伝と正月は駅伝だらけでフォーカスできなくなってきたこともあるでしょう。

私は来年以降も駅伝はチェックするとは思います。それは北米太平洋時間だと正月と1月2日の夕方の放送なので酒を飲みながら観戦できるという時間的メリットがあるのです。が、何か、試みを変えていく必要はあるのかもしれません。来年度は100回大会で関東学生連合ではなく、日本学生連合になるので門戸を広げるようです。ただ、巨人阪神戦や早慶戦のような伝統の一戦としての盛り上がりを好む長年のファンも多いわけで駅伝は今のままで良いという声がきっと主流なのだろうな、と察しております。原監督に言わせれば「これじゃ、選手が集まらない」と嘆くことしきりだと察していますが。

では今日はこのぐらいで


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月4日の記事より転載させていただきました。