子育て支援の支出増だけで出生率は上がるのか

衛藤 幹子

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2022年の出生数が80万人を下回るという。日経新聞によると、推計では80万人割れは2030年だったので、人口が1億人を切る時期も早まることになる(2022年12月2日)。

日本の出生数急減、今年80万人割れへ 人口1億人未満早まる恐れ
【この記事のポイント】・減少率は過去10年の平均の2倍に加速・潜在成長率を押し下げ、生産性を高める必要・30年後は年50万人程度になるとの見方も日本の出生数が急減している。2022年の出生数は初めて80万人を下回る公算が大きい。少子化が進むと年金や医療など現役世代が支える社会保障制度が揺らぐ。労働投入も減り経済の成長力...

人口の安定的維持に必要な合計特殊出生率の水準は「人口置換水準」と呼ばれ、日本では2.06〜2.07とされている(国立社会保障・人口問題研究所)。この水準を下回り始めたのは、1975年(1.91)である(厚生労働省)。以来、出生率は低下の一途をたどり、2021年が1.3で、22年はこれよりさらに下がるはずだ。

1989年の合計特殊出生率1.57に落ちたことが「1.57ショック」という言葉とともメディアで大きく取り上げられた1990年、少子化は政治が取り組むべき重要課題の一つになった。以来、歴代政権は手を替え、品を替え対策を打ち出してきた。しかし、いずれも成功したとは言い難い。

日本の少子化対策の問題は、子育て関連予算が著しく少ないことだと指摘されている。これは、必然的に出生率が低下する先進国では、子育て支援など家庭関係支出の規模が小さいと出生率は回復しない傾向を示すという国際比較に基づく見解である。

たとえば、内閣府の「家庭関係支出の拡充の考え方」(2014年)という資料では、OECD諸国の家庭関係支出及び高齢関係支出のGDP比と出生率を比較し、「高齢関係支出に対して家庭関係支出が高いほど出生率が高いという緩やかな正の相関関係が成り立つ」と結論づけた。

令和4年版「少子化社会対策白書」(2020年)によると、家庭関係支出のGDP比は日本1.73%、ドイツ2.39%、フランス2.85、イギリス3.24、スウェーデン3.4、一方合計特殊出生率は、日本から順に1.33、1.53、1.82、1.58、1.66であった。支出額の増大は出生率を押し上げる効果があるようだ。

しかし、支出規模を大きく引き上げるだけで出生率が上昇するとは思えない。というのも、日本の出生率が低迷する背景には、婚姻率の著しい低下という、「出生」以前の問題があるからだ。日本の婚姻率(人口千人当たりの婚姻件数)の推移をみると、1970年から1974年には10以上であったのが、以後下降に転じ、2019年は4.8と半減した(令和3年度版「少子化社会対策白書」)。下降傾向は今後も続くと予想される。

内閣府の調査によると、20代の女性の14%、30代女性25.4%、男性は20代19.3%、30代26.5%が、「結婚の意思なし」と答えていた。その理由として、女性の場合は「自由でいたい」「結婚するほど好きな人に巡り会っていない」「仕事・家事・育児・介護を背負うことになるから」「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」が挙げられたのに対し、男性は「結婚生活を送る経済力がない・仕事が不安定だから」という回答の割合が高かった(令和4年版男女共同参画白書)。

これらの理由、社会が男女それぞれに求める時代遅れのジェンダー役割に対するかれらの拒絶や躊躇の意思を表明するものだと解釈できないだろうか。女性は、結婚によって「夫や子供の世話をする」という役割が押し付けられることに対するノーを突きつけたのである。他方、男性は、「経済力を持ち、妻子を養うべき」との社会的期待が果たせないことへの戸惑いが現れた。

伝統的なジェンダー観を打ち破ろうとする女性に対して、男性はそれにまだ囚われているようにみえる。これも婚姻率低下の遠因かもしれない。が、いずれにしろ、若い世代の生き方や生活に対する考え方と既存の結婚制度の間にズレが生じているのは確かである。

子育て支援予算の大幅増は大いに賛成である。しかし、同時に結婚のあり方や子どもを持つことに対する考え方を柔軟にし、それらのハードルを低くするための政策が不可欠だ。

たとえば、フランスやスウェーデンなどのように、事実婚を法律婚と同等に扱い、法律婚に伴う面倒な手続きや無意味な儀式を省くことができるようにする。さらに、非婚や未婚の母の法的権利を保障し、「結婚しなくても安心して子どもを産み育てることができる」環境を整備することも重要である(拙稿「少子化問題 (2):出生率上昇の鍵は「ポストモダン」家族の受容」参照)。

少子化問題を考える②:出生率上昇の鍵は「ポストモダン」家族の受容
先進国の中で(合計特殊)出生率の改善に最も成功した国と言われるフランス、どのような要因が働いているのか。日本でも良く知られているのが手厚い家族政策だ。家族給付(主に子ども手当)及び家庭と仕事の両立支援を2本柱に、個別のニーズに沿った...

スウェーデンの大学では妊娠中の女子学生をしばしば見かけたが、彼女たちには産休、育休が保障され、学業には何の支障もないとのことだった。

イデオロギーが対立する結婚や家族に関わる法制度の刷新は難しいに違いない。しかし、バラマキよりも経済的、しかも効果は長期に及ぶ。やらない手はない。