憲法が保障した基本的人権

憲法には様々な人権規定がある。

これらの人権規定は太古から保障されていたものではなく、近代市民革命等を経て一般市民が勝ち取ったものだ。

絶対王政以前の時代には、ほとんどの人間には基本的人権が認められなかった。

ギリシャ、ローマ時代の奴隷や中世の農奴は「物」のように売買されたりした。

近代市民革命等を経て、一般人にも基本的人権が認められるようになった。

最高裁判所 裁判所HPより (イメージ 編集部)

もっとも、女性参政権が認められなかったり、米国で奴隷制度が残ったり、基本的人権は一気に広く認められたのではない。
時代の経過と共に、少しずつ拡大されていったというのが歴史的事実だ。

このように、近代的な基本的人権は、国家から一般市民が奪い取ったものだ。

自分たちの自由に対して国家が干渉してはならないという「国家からの自由」が人権の原初的なものだ。

国家から奪い取った権利であるので、基本的人権は原則として国家と個人との関係を規定したものだ。
私人間で憲法の規定が適用されるか否かについては、「間接適用説」が通説だ。

人権の種類として、まず「包括的基本権」がある。

包括的基本権とは憲法13条のことで、「全ての国民は個人として尊重される。生命自由及び幸福追及に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り立法、その他、国政の上で最大の尊重を必要とする」と規定している。

最も重要な価値である「個人の尊重」を規定し、「生命自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障した点でより一層重要な条文となる。

プライバシー権のような新しい権利は「幸福追求権」から導かれる。

喫煙の権利も「幸福追求権」の一種だ。

受動喫煙のように他人に迷惑をかけなければ、法律で合法とされているタバコを吸う権利は認められる。

覚せい剤などの薬物が法律で禁止されているのと比較すればわかりやすい。

法律で禁止されてないものは幸福追求権のとして認められるべきだと考えます。

「包括的基本権」の次は「法の下の平等」だ。

憲法14 条は「全ての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分、また門地により政治的経済的、または社会関係において差別されない」と規定している。

本条の「人種、信条・・・」というのは例示であって、該当しないものも憲法14条で保障される。

最近は、年齢差別などが問題となっている。

「法の下の平等」でホットなイシューは「一票の格差問題」だ。

国会議員1人を100人の中から選ぶのと200人の中から選ぶのとでは、一票の価値が2倍になってしまう。
選挙区によって一票の価値が2倍になると「一人一票の原則」が崩れてしまう。

これからも「一票の格差」を巡って裁判所に提訴されることが予想される。

精神的自由権は以下の規定で保障される。

19 条「思想より良心の自由はこれを犯してはならない」
20条「信教の自由は何人に対してもこれを保障する」
21条「 集会結社及び言論出版。その他一筆採用の表現の自由はこれを保証する」

最も重要なのは21条の「表現の自由」だ。

「表現の自由」は民主主義を維持するために不可欠な権利だからだ。

例えば消費税を100% にするという意向を政府が発表したとする。

すると、マスコミが大反対して一般人もSNSで大バッシングをする。

政府の方針に賛成する議員には投票しないという動きも出てくるだろう。

議員諸氏も落選すると困るからこのような方針に賛成意見を表明しない。

結果として、経済的自由の不当な侵害は「表現の自由」がきちんと機能すれば抑止される。

大きな批判に晒されることが予想されれば、事前抑止効果もある。

政府批判を許さない中国が、突然、習塾の経営を禁止できてしまうことを斟酌すれば、いかに「表現の自由」が重要か理解できる。

先述したように、原初的な人権は「国家からの自由」と言われ、国家によって恣意的に自由を奪われない権利だった。

しかし、国家からの自由だけでは個人の尊重を図れない。

20世紀 、21世紀になってくると貧富の差等が問題となってきた。

ここで登場したのが「国家による自由」というもので、典型的なものは生存権だ。

憲法25条は「全ての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定しており、国の積極的な関与を求めている。

参政権や請願権は「国家への自由」という範疇に入る。

参政権は主権者たる国民が主権を行使できる権利なので、民主主義の根幹とも言える権利だ。

以上のように、基本的人権の原初的なものは「国家からの自由」で精神的自由権、経済的自由権、身体的自由権などがあり、その後生存権のような「国家による自由」が生まれてきた。

「国家への自由」である参政権は主権を行使する重大な権利であり、比較的最近まで女性参政権が各国で認められてこなかった点も忘れてはならない。


編集部より:この記事は弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2023年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。