人生を変えたいなら「始める」より「やめる」

黒坂岳央です。

世の中はとかく「あなたに不足しているものはこれだ」ということばかりが取り沙汰されがちだ。

  • 体調が優れない → サプリで栄養補給を
  • 仕事の生産性が低い → 新しいスキル、知識を磨こう
  • 人間関係に苦しんでいる → 新しい人と出会おう

こうした提案ばかりなされるのは、「始める」サービスを提供するビジネスへとつなげたい販売者側の意図があるからだ。もちろん、ビジネス自体は否定しないが、多くの場合「新しく始める」より「既存の悪習慣をやめる」方が人生を変えるのに必要なケースは少なくないと思っている。いつまでも新しい試みばかりを取り入れても前に進むことはできないのだ。

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やめないと始められない

そもそも論として、何事も既存の習慣をやめないと新しいものは入らない。

人生を生きる上で人はあらゆる制約に縛られる。経済的、時間的制約である。限られたリソースをどんどん新しいものへ割いていたらすぐに限界に達する。

特にお金はなんとかなっても、時間だけはどうやっても増やせない。世界一の富を持っているとしても、本質的に自分の持ち時間は24時間と決まっている。さらに年をとると体力が衰え、使えるリソースはより厳しくなる。だからこそ、まずやるべきは今やっている付加価値の低い活動をやめることなのだ。そうすることではじめて、新しいことを始められる。

始めるよりやめる方がパフォーマンスが高い

人生を好転させるための活動は新しく始めるより、やめてしまう方がパフォーマンスが高いといえる事例を取り上げたい。

仕事についていえば、生産性が低いことでやたらと知識やスキル、ツールの導入ばかりを考えがちである。しかし生産性を高めたければ、まずは付加価値の低いことをやめる方がパフォーマンスが高いことは少なくない。新しい価値を取り入れるにはコストも時間もかかるが、付加価値の低い既存の仕事をやめれば、その分時間もコストも浮きさらにその効果は永続する。パフォーマンスが高いのは明らかである。

具体例としては、人数を多く集めて何も決定できない会議をやめるとか、収益性が低い事業にしがみつくのではなく勇気を持ってスパッと撤退してしまうなどである。取引先に訪問していた営業のミーティングをやめることで、ZOOMオンラインに切り替えることができるだろう。

健康にも同じことが言える。健康になりたいと考える場合は、栄養価のある食品を今の食習慣に加えようとする人が多いが、そんなことをすれば今度はカロリー過多になったり、特定の栄養過剰摂取で余計に不健康になってしまう。だから健康になりたければ、まず今食べている栄養価の低い食品(エンプティカロリーなど)や、添加物たっぷりのジャンクフードをやめることだ。その上で栄養価の高い食品に置き換えればいい。

始めるよりやめる方があらゆる面でパフォーマンスに優れているのだ。

人間関係の悩みも「始めるよりやめる」

筆者が自覚する自己の弱点として、良くも悪くも人間関係にあまりに影響を受けてしまうということである。合う人とはとことんべったり仲良くなれるが、合わない人と上手にやり取りをするということが本当にうまくできない。

相手からレベル1のネガティブなことを言われると、レベル3くらいの強さで解釈してしまいメンタルに悪影響を受けてしまう。相手の話を聞きすぎてしまうのだ。だからサラリーマン時代は同僚や上司との相性で、仕事のパフォーマンスは大きく変化してしまうということがあって困っていた。

だから人間関係に悩んだ結果、新しい人間関係を構築するのではなく、徹底的に合わない人と距離を取るようにした。そうしたことで気がつけば、人間関係の悩みは完全に消えた。「相性が悪い人ともうまく付き合いながら、合う人を探して付き合っていく」という器用なことはできなかったが、相性が悪い人と無理に付き合うことをやめたことで問題は解決した。「やめる」のパフォーマンスの高さを再認識できたと感じた経験だった。

現代人はどんどん忙しくなっている。more is moreという考え方で次々と価値のありそうなものを取り入れるやり方ではすぐに限界が来る。その逆のless is moreこそパフォーマンスが高いと提唱したい。余計なことに時間とエネルギーを使っているほど、人生は長くないのだから。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。