運動不足解消にいきなり筋トレを始めてはいけない

黒坂岳央です。

世の中は空前のブームと言っていいほど筋トレが流行っている。筆者は田舎に住んでいるのだが、店舗が潰れた後のテナントにジムが入る、という光景が最近続いたので余計にそう感じる。SNSやYouTubeでも「筋トレを始めた」という人はすごく多い。

運動不足の人が増えれば病気や生活習慣病、健康寿命を縮めて将来寝たきりリスクを高め、社会全体で見ても医療費増額につながる。筋トレが流行ることで運動不足が解消するのは、個人レベルでも社会全体レベルでもとても良いことだ。

しかし、筋トレを習慣化することは理想的ではあるものの、それをきちんと効果の出るフォームで継続することは簡単ではない。そのため、せっかく始めた筋トレも続けられない人もいるし、よしんば頑張って続けても正しいフォームでやっていないために思ったような効果が出ないということも起きてしまう。結論を先に言えば、筋トレをするよりまずはウォーキングを勧めたい。

※本稿は運動習慣ゼロの人が一発奮起して筋トレに挑むことの難しさを書いたものであり、すでに筋トレ習慣がある人に当てはまる内容ではない。その点に留意いただいた上で読み進めてもらいたい。

charnsitr/iStock

初心者に筋トレは難しい

まず多くの人にとって筋トレは結構ハードルが高い。最初のハードルは器具を揃えることだ。腕立て伏せやスクワットなどをすれば器具は要らないが、せっかくやるならダンベルは欲しいところである。また器具だけでなくプロテインなども準備をしたい。

自宅の事情が許さずジムへ通って筋トレをする人も多いが、そうなるとジムの月額料金なども必要になってくる。さらに自己流で適当にやっても、うまく負荷がかからず効果の出る筋トレにならないこともある。

そしてどの器具をどう使うか?どの部位をどのくらいのタイミングで鍛えるのか?普段の食事は?活性酸素が大量に出ない程度のレベルに抑えるには?こうした知識も必要になる。酒や砂糖を控え積極的に良質なタンパク質をとる食事上の胆力も必須だ。

筋トレは簡単ではない。コストもかかる。ジムへ通うなら移動時間も必要だ。すでに習慣化できている人や、運動が好きな人にとってはなんてことないこうしたハードルも、運動なんてほとんどしたことがなく筋トレも中年期から始めるという人にはかなり高いハードルなのではないだろうか?

筋トレの継続は更に難しい

知識や器具を揃えた。幸い、自宅の近くにジムがある。こうした筋トレをする環境を整えた後もハードルが立ちふさがるものが「継続」の壁である。

筋トレは一日必死にやったらOK!というものではない。資格試験のように一度合格したらもうやめていいという類のものではなく、基本的に一生続ける必要がある。やめてしまえば徐々に筋肉は減っていくからだ。つまり日常生活に筋トレを完全に組み込む必要がある。そしてこれは運動習慣ゼロの人にはとても難しいことだ。

筋トレは着替えや片付け、ジムへの移動時間などを考慮すると最低でも30分間、人によっては60分くらいかかる。そして忙しい日常生活から必死に捻出したわずかな時間を筋トレにあてるのはなかなかのメンタルタフネスが求められる。

なんせ、筋トレは辛い要素に溢れている。十分筋肉が育ってくれば楽しくなってくるかもしれないが、そこまでたどり着くのが難しい。重い器具を持ち上げたり、汗だくになりながら辛いトレーニングに耐えて負荷をかける作業に「すごく楽しい」「明日もやりたい」と思える要素は皆無と言っていい。これがスポーツならゲーム性があって少しは楽しいかもしれないが、基本的に筋トレは一人で黙ってやるものである。楽しい要素が少ないためどうしても初心者には続けにくい。

筋トレではなくウオーキングをやろう

誤解のないようにいいたいのは、筆者は筋トレを完全否定しているわけではない。今年は自分自身が自宅に筋トレ器具を充実させ、本格的にやりたいと計画中だし筋トレをきっちりこなせば人生が変わるほどの変化が出ることは複数の実践者から聞かされている。筋トレの高い効果はよく理解している。本稿はあくまで「運動習慣ゼロ」の人が思いつきでいきなり飛びついても続かないのでは?という提案である。

物事には順序が必要だ。だから筆者は筋トレの代わりにまずはウォーキングから始めることを勧めたい。ウォーキングを続けられれば、次のステップに筋トレを考慮する方が良いと考える。ここからその根拠を述べる。

まずウォーキングに必要なものは何もない。プロテイン、器具、着替えなどは不要だ。スマホの歩数計機能があれば十分である。そして都心に住んで電車通勤をしている人なら、毎日一駅余分に歩けばいい。それだけでもう完璧なウォーキングができる。一度、通勤定期券を買ってしまえば、泣いても笑っても嫌でも継続できる。毎日の通勤で強制的に歩くので慣れれば苦にならない。さらに激しい運動で筋肉を痛めたり、フォームなども気にする必要はなく気持ち早足で歩くだけで良いのだ。室内ウォーキングなら読書や映画鑑賞、音楽鑑賞などもできる。

筆者は小学生通学の時からずっとウォーキングをする人生を送ってきた。2020年の一年間だけは例外的にコロナ禍でほとんど歩かない生活となり、その結果健康診断の数値は激しく悪化した。また人に会うと「太った?」と複数人から言われて恥ずかしい思いをした。その後、部屋にウォーキングマシンを導入したら健康診断の数値はすべて改善し、理想体重に戻す事ができた。今は高校生の頃と同じ体重をキープしている。

正直、自己体験的にもウォーキングは最強の運動と思っている。ウォーキングをすれば、気持ちが落ち込んでいても歩けば不思議と気持ちが上向いて前向きになれる。ドーパミンが出ると言われている根拠に裏打ちされたものだろう。大病も経験がなく、体力も20代の頃とまったく変わらない。旅行へいくと2万歩は歩くが疲れたと感じることもなく歩ける。

ウォーキングを継続すれば、運動不足の人も確実に体力アップ、健康効果を実感できるはずだ。その上で改めて筋トレ導入を検討すればいい。ウォーキングで運動習慣と基礎体力を鍛え、その上での筋トレなら続けやすいのではないだろうか。

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。