謙虚な人にケンカを売ってはいけない

黒坂 岳央

黒坂岳央です。

以前に「優しい人」を怒らせてはいけないという記事を書いた。少し似ている部分はあるが、今回は「謙虚な人にケンカを売ることの愚かさ」を論考したい。

世の中、謙虚な態度の持ち主に対して「与し易い」「弱い」と勘違いしてマウントを取りに行く人物がいる。だが、気をつけた方がいい。実力者ほど謙虚な態度でいることも多いからだ。それを知らずにケンカを売りに行くと自身の無知を晒して恥をかくことになる。自分の感覚と実際の実力には大きな差が開くことは多い。往々にして、それは相手の実力が自分を大きく超えている時に起きる。

yamasan/iStock

実力者ほど謙虚

実力者ほど謙虚、と言われる。そして実際この言葉は正しい。筆者はビジネス講演に呼ばれることがあるが、過去に農林水産省関係の公益法人からの依頼で、大学教授、研究者、ビジネスマンを前にフルーツビジネスの展望や課題をテーマに登壇させてもらったことがあった。

参加者は静かに聞き、講演後に複数名の研究者から質問を受けた。その際、質問者は皆がとても紳士的で丁寧で謙虚だった。「当方、十分が知識がない立場につき失礼があったら申し訳ないですが…」「素人質問で大変恐縮なのですが…」と前置きをするのだが、実際には極めてハイレベルで専門的な知識に裏打ちされた鋭い質問ばかりで驚かされた。9割は即答できたが、しっかり調べなければ確信を持って回答できないものもあった。そのため、「この質問については、確認の上で後ほどご連絡させていただきます」と持ち帰ることになったものもあった。実力者ほど謙虚なので侮れないことを理解した体験である。

また、SNSやYouTube、記事などで門外漢でメディアでかじった知識で専門家にケンカを売る人はかなり見る。たとえば医学の専門家相手に「この薬は実は危険だ。イルミナティの陰謀によって…」といった話をふっかけて「真実を明らかにせよ」と迫る人などである。

ほとんどの場合は相手にされていないか、軽くスルーされているのだが、時には誹謗中傷に耐えかねた相手から訴訟を起こされているケースもある。素人が実力者にケンカを売る行為は恥を晒すことも多いのでやめた方よいと考えるのである。

実力者ほど謙虚になる理由

実力者ほど謙虚な理由は、知識や技術を磨くほど上には上がいることを理解し、謙虚になるという理由があげられるだろう。その他にも。それは謙虚な姿勢は大衆に好まれるからである。

その逆に胸を張って歩けば、マーケットでアゲインストの風に吹かれることになる。よほどビジネスメリットを考慮したり、ブランディング目的でそうするのでなければ、ムダに敵を作る行為はデメリットしか産まない。余計な対応に時間とエネルギーを使わされてしまう。特にビジネスマンやアカデミックにおいて、最大の資源は「時間」である。付加価値の低いことに時間を使わないためにも、謙虚な態度を維持するのは省エネになると考えることが可能だ。

無知の知を得る

「無知の知」というソクラテスの言葉がある。知識がなければ自分の無知には気づけない。つまり、多少知識を得て自分の無知を理解した者の方が、まったくの無知よりマシであるということだ。謙虚な相手の間違いを正そうとするような人は無知の知がないことがほとんどである。本当に相手の実力が分かっていれば、わざわざ自ら恥を晒すことはしないからだ。

誰かの発言にカチンと来た時、やるべきは相手を間違いと決めつけて正そうとするのではなく自分の無知を疑って知識を得ることである。その結果、間違っていたのは相手ではなく自分自身ということに気づことがあるかもしれない。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。