日経トレンディが予測する2023年ヒットの1位は「コンビニジム」だった。その代表例として紹介されたのが、ライザップ(RIZAPグループ株式会社)が運営するジムの新業態「chocoZAP(ちょこざっぷ)」である。
月会費3,278円(税込)という低価格。QRコード入館による無人運営。そして、24時間利用できる高い利便性。ライザップは、「コンビニジム」という言葉を、このchocoZAPの代名詞のごとく、
「世界初のコンビニジムが誕生」
「コンビニみたい!」
と、広告で盛んに活用している。これは、同業者からすると面白くないだろう。というのも、以前から、ジムの「コンビニ化」は潮流であり、「コンビニジム」という言葉は業界用語として定着していたからだ。
スポーツジムに、「コンビニ」という言葉が使われ始めたのは、かなり前のこと。2010年に、24時間ジムの先駆けである「エニタイム」(株式会社 Fast Fitness Japan)がオープンし、少ししてからのことだ。その後、24時間ジムが急増。業界で「24時間ジム旋風」が話題となり、2019年にはフィットネスジム新設のうち、半分以上を24時間ジムが占めている(※1)。
一方、ライザップが24時間ジムを検討し始めたのは2020年。2021年10月から9ヶ月のテスト期間を経て、2022年7月に「chocoZAP」を立ち上げている。コンビニジムとしては「世界初」どころか「後発」だ。
そうした次世代ジムの計画を加速させたのが20年以降(2020年以降)のコロナ禍です。…(中略)…代わりとなる新規事業をいくつも検討する中で、無人で24時間営業という「コンビニジム」のアイデアが出てきたのです。(RIZAPグループ株式会社 代表取締役社長 瀬戸 健氏)
RIZAP社長に聞く、コンビニジム「chocoZAP」が示すジムの未来:日経クロストレンド
ライザップという企業の「強み」
ライザップは、メディア露出の仕方や、CMの魅せ方が「うまい」。chocoZAPの広告で活用したのは、「コンビニジム」という言葉だけではない。「着替え・靴の履き替え不要」「24時間・全店舗利用可能」「安価」など、スポーツジムの潮流(あたりまえ)を改めて訴求している。広告のお手本のようだ。
「うまい」のは広告だけではない。決算報告、経営計画の見せ方も巧みだ。ステークホルダー(投資家・取引先など利害関係者)の方々は、これらを細かく分析する必要があるだろう。
幅を持たせた利益予想
2022年9月末に行われた中期経営計画説明会では、
「(不透明な外部環境に加え)chocoZAP事業の業績が好調な場合は出店計画を前倒しして実行する」
とし、今期末(2023年3月期)の最終利益予想は、△20億円(赤字)~ 5億円(黒字)と幅を持たせた。今期は「chocoZAP次第」ということになる。
説明会には、代表取締役社長の瀬戸健氏が「chocoZAP」ロゴのTシャツで登壇。説明資料の半分以上を、chocoZAPの訴求が占めるなど、ライザップのchocoZAPへかける思いがうかがえる。だが、その思いが強すぎはしないか。
3年後(2026年3月期)の、RIZAP関連事業(chocoZAP、RIZAPボディメイク、RIZAP GOLF、EXPAなど)の売上目標は710億円。今期末の売上(190億円見込)に、「520億円」上乗せする必要がある。かなり強気の目標設定だ。
売上達成は困難
chocoZAPは今期末時点で300店舗(見込)。今後3年間で1,700店舗出店し、2,000店舗を目指すという。だが、現在の1店舗あたり会員数(平均478人 ※2)を維持しつつ、順調に出店できたとしても、売上増は「300億円弱」に過ぎない。
目標を達成するには、chocoZAP以外の事業(RIZAPボディメイク、RIZAP GOLF、EXPAなど)で、「220億円」以上売上を増やす必要がある。だが、RIZAPボディメイクおよびEXPAの店舗数は減少傾向(ともに前期比4店舗減)、RIZAP GOLFは現状維持に留まる(2022年9月時点)。220億円もの売上増は期待できない。
(左:EXPA、右:RIZAP GOLF) RIZAPグループ株式会社プレスリリースより
会員数増も出店も困難
では、1店舗あたり会員数は増やせるか。これも難しい。chocoZAPの店舗はかなり狭いからだ。店舗によっては、同業種の24時間ジム「エニタイム」の半分以下と推測されるところもある。
エニタイムの1店舗あたりの平均会員数は850人。対して、chocoZAPは478人(※2 )。すでに、エニタイムの半分を超えており、ネットでは、「狭い」「キャパを超えてる」などのコメントが投稿されている。これ以上の会員増はかなり難しいだろう。
2,000店舗の出店も困難だ。「エニタイム」を運営する株式会社 Fast Fitness Japanの土屋敦之社長は、24時間ジムの市場規模は「最大で4,000店舗ぐらい」だという。すでに、24時間ジムは全国で2,300店舗超。市場はレッドオーシャン化しつつある。
差別化施策は「諸刃の剣」
そのため、各社は、低価格化に加え、さまざまなサービスを提供している。たとえば、「JOIFIT24」を運営する株式会社ウェルネスフロンティアは、chocoZAPと同料金で、家族3名までが無料で利用できる、新業態「FIT365」を2015年より展開。現在の90店舗から2025年3月期までに300店舗へ拡大を目指す。
chocoZAPも、「セルフ脱毛・セルフエステルーム」などのサービスを提供し、差別化を試みてはいる。だが、これらは場所を取り、「肝心のトレーニングエリアが狭い」という指摘もあり、「諸刃の剣」となっている。
ライザップの目標達成には、chocoZAPだけではなく、従来の事業の抜本見直しが迫られるだろう。
競合はスポーツジムだけではない
スタジオもプールもお風呂もいらない。トレーニングさえできればいい。そんな利用者たちがchocoZAPのターゲット層だ。求める費用対効果(コスパ)はかなり高い。
「もっと安いところはないか」「もっと効果的なマシンを使ってみたい」
chocoZAPの競合は、他社が運営するスポーツジムとは限らない。
公営のスポーツセンターは、1回の利用額が300円~600円程度と安価なうえ、夜10時頃まで利用できる。スミスマシンやパワーラックなどを設置し、本格的なトレーニングに対応しているところもある。YouTube等の無料映像を利用した自宅での自重トレーニングでも、かなりの効果を上げることができる。これらはみな「競合」だ。
chocoZAPは、利用者に「競合」を超える満足感を与えることができるだろうか。
【注釈】
※1
フィットネス施設に関する調査を実施(2020年)|市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
※2
2022年9月時点
RIZAPグループ 中期経営計画(2023年3月期?2026年3月期)より算出
【参考】
24時間ジム「エニタイム」コロナ禍でも強気の訳 | 東洋経済オンライン
RIZAPグループ株式会社有価証券報告書・決算説明会資料