戦時下の原発の安全に取り組むIAEA:原発周辺は非戦闘地帯にすべき

ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は、ウクライナの4カ所の原子力発電所(NPP)と廃炉となったチェルノブイリサイドに専門家の支援ミッションを派遣する。IAEA専門家の常駐派遣は、ウクライナの原発が戦闘で重大な原子力事故を起こすことを防ぐためだ。ウクライナの4カ所の原発とチェルノブイリサイドに約11人~12人の常駐スタッフを派遣することになる。IAEAの歴史でも前例のない大規模な取り組みだ。

ウクライナの原発の安全に取り組むIAEAの旗(IAEA公式サイトから)

ウクライナといえば、旧ソ連時代のチェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)を思い出す人が多いだろう。同原発から放出された放射能は欧州全土を覆った。そのウクライナには現在15基の原子炉があり、設備容量では世界第8の原発国だ。ロシア軍が昨年2月24日に侵攻して以来、多くの原発は戦場下にある。

ウクライナ戦争で最も恐れられてきたシナリオはロシア軍やウクライナ軍が撃った砲撃が原発を直撃した場合だ。実際、ウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で昨年8月5日、少なくとも3回の砲撃があり、原子炉が設置されている発電区画付近に着弾した。幸い、死傷者はなく、放射能漏れは検出されなかった。同原発は同月6日にも砲撃を受け、関連施設に被害が出た。ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムによると、ロシア軍がロケット砲を打ち込み、高圧送電線などが損傷し、敷地内で火災が生じたという。

南ウクライナ原発(SUNPP)でも昨年9月、近くに砲撃があり、現場の3系統の送電線に影響を与え、窓ガラスが損傷した。ゼレンスキー大統領は、「原発への攻撃は戦争犯罪であり、テロ行為だ」と激しく批判している。ZNPP地帯はロシア軍が昨年3月以来占領、管理しているが、原発関係者はウクライナの専門家たちが常駐している。ZNPPには6基の原子炉がある。

IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、「戦闘で原子力災害が発生しないようにしなければならない。非常に現実的なリスクだ」と強調、そのために、①原発にIAEA専門家を常駐させる、②原発周辺を原子力安全/セキュリティ保護エリアと設定し、非戦闘地帯として如何なる戦闘も中止する、という2点を提案し、ロシア側とウクライナ側の間の合意を促してきた。

グロッシ事務局長は17日、ウクライナ政府の要請を受け、IAEAのリウネ原発支援サポートミッション(ISAMIR)を立ち上げ、南ウクライナ原発でも同じようにスタートした。同事務局長によると、18日にチェルノブイリサイドに、そして数日以内にフメルニツキー原発にIAEA専門家ミッションを派遣する。ZNPPには既に2人、最大4人のIAEA査察官が昨年9月以来、常駐している。

同事務局長はまた、SUNPPではウクライナのヘルマン・ハルシチェンコ・エネルギー大臣、ウクライナの原子力会社エネルゴアトムのペトロ・コーチン社長、およびウクライナ原子力規制局のオレー・コリコフ局長らと次々と会談した。

グロッシ事務局長は、IAEA旗の掲揚式典後、「ウクライナの原子力発電施設とチェルノブイリの現場に専門家を配置することで、ウクライナでの悲劇的な原子力事故を防ぐための技術活動を強化していく」と述べ、IAEAの原発安全にかけた意気込みを表明している。

IAEAのウクライナ原発リポート(1月17日)によると、ウクライナの南ウクライナ、リウネ、フメリニツキーの3原発では、エネルギーインフラストラクチャーをターゲットにしたロシア軍のミサイル攻撃への予防措置として週末、出力を削減した。ウクライナからの情報によると、電力レベルはその後回復。また、キーウへのミサイル攻撃がキーウ研究所の敷地内の倉庫で火災を引き起こした。このサイドには燃料が取り除かれた研究用原子炉があり、その炉心はサイドの使用済み燃料貯蔵施設に保管されている。負傷者はいなかった。放射線モニタリングが実施され、変化は測定されていない。

ロシアのプーチン大統領がロシア軍をウクライナに侵攻させてから来月24日で1年目を迎える。戦闘は長期化の様相を深めている。ウクライナの原発でいつ事故が発生するか分からない。グロッシ事務局長が提案したように、ロシアとウクライナ両国は原発周辺を非戦闘地帯に指定すべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。