無印良品(株式会社良品計画 以下 無印)が低迷している。
営業利益は、前期(2022年3月期第1四半期比)の約55%減、国内事業においては約96%の減少となる。特に家具を中心とする生活雑貨の不調が目立つ。売上のうち、「国内」が6割(地域カテゴリ)、「生活雑貨」が5割(商品カテゴリ)を占める無印にとって、これは大きな痛手だ。
テコ入れ策として、以下3つが示されている。
- 新業態「無印良品500」の出店(商品構成の変更)
- プラスチック素材のリサイクル又は「紙」への変更(商品そのものの変更)
- 家具サブスクリプションの拡大(事業構造の変更)
好手、悪手が入り混じっているように思える。それぞれ考察する。
無印良品 500
無印は、500円の商品を中心とする新業態「無印良品 500」を昨年9月より展開している。
ネーミングからわかる通り、目的は「価格の明示」だ。これにより、100円ショップ群との対立構図が明らかとなった。100円ショップは、もはや「100均」ではない。300円・500円の商品はもちろん、1000円を超える商品をも取り扱う「生活雑貨店」だ。
「Standard Products」(ダイソー)や「3COINS」など100円超の新業態へのシフトも加速している。これら「値上げ」する100円ショップ群に対し、値下げともとれる価格「500円」を明示するのは、かなり効果的だ。
もとより、無印は100円以下の商品も取り扱っていた。特にブラシ・小型プラスチックケースなど日用品は、(あくまで筆者主観だが)100円ショップより質が高く、安価なものが少なくない。だが、あまり知られておらず損をしているフシがあった。
「500円以下の商品もたくさんありますよ」
と声をあげることは、目玉商品効果(ロスリーダー政策)が期待できるうえ、新商品開発や大幅な改装も不要だ。
実際、新店舗の雰囲気は従来の「無印良品」とさほど変わらない。違いは「大きな商品がなくなった」ことぐらいだろう。
スペースをとる収納具や衣類などを大幅に減らした結果、導線に余裕ができ、商品が見やすくなった。その分、台所雑貨など小物を増やした。500円以上であっても、化粧品やタオル類などは残している。買換えサイクルの短い商品に品揃えを絞り込んだのだろう。
「無印良品 500」は、
「月に1回を週に1回の頻度で足を運びたくなるようなお店づくり」
を目指すという。手頃な価格かつ見やすい店内の「無印良品 500」は、買い物でお決まりの「まずは100均」という経路を、「まずは無印」に置き換えるきっかけとなるかもしれない。
商品素材の変更
次に、2つ目の施策、「リサイクル素材への変更」について。
無印には、「ムジラー」と呼ばれる愛好者や、一部のミニマリストなど固定客が存在する。彼ら(彼女ら)が無印を愛用する理由は、商品に統一感があること。そして、これら商品の販売が継続されることだ。
ムジラーやミニマリストたちは、部屋作りに、色(特に白色)やサイズ・デザインを統一した収納具を用いる。同じ高さの白い収納具で整えた美しい部屋。買い替え・買い増しをするときに「異分子」を混入させるわけにはいかない。
無印であれば、数年後であっても同じ色・サイズの商品が、高い確率で手に入る。同一商品が再入荷しないことが多い100円ショップ等と異なり、無印にはそういう信頼感がある。
ところが、無印は今回の経営計画で、「プラスチックはリユース・リサイクル・代替素材に100%移行する」と明言。第一歩として、「黒色リサイクルプラスチック(※)」や「紙」を素材としたファイルボックスを販売する、という。
※色抜きできないためリサイクルでは「黒色」にすることが多い
環境意識の高いムジラーやミニマリストたちからすれば「リサイクル」推進は共感できるだろう。だが、自分たちの部屋に「黒」や「異なる素材」が紛れることを許容できるだろうか。
ネットでは、「ニトリ」や「Standard Products」(ダイソー)などに、無印の模倣品があることが指摘されており、それらは「無印ジェネリック」と揶揄されている。ムジラーやミニマリストたちも、この「無印ジェネリック」に流れてしまうのではないだろうか。
家具のサブスクリプションは諸刃の剣
最後に「家具のサブスクリプション(レンタル)」について。
無印は1年前から家具のサブスクリプションを行っている。これを今年2月より拡大。対象商品を、32アイテムから72アイテムへ倍増させる。
契約期間は1~4年。購入価格19,900円の木製ベッドの場合、支払総額は4年契約で24,000円となる。商品によるが、買取よりも10~40%程度割高に設定されているようだ(4年契約の場合)。契約期間満了後は「返却」「延長」「買取」から選択することができる。
無印は、このサブスクリプション拡大を、「事業モデルの転換」とし、以下のように説明している。
「家具は買って使って要らなくなったら捨てる」という事業モデルから、「家具は人から人へとずっと引き継がれて使い続けられる」という事業モデルに転換する。
(2023年8月期 第1四半期決算説明会資料)
「事業モデルの転換」というよりも、「社会構造を変革」する啓蒙活動のような印象を受ける。もとより、崇高な経営理念をもち、環境意識の高い無印だからこその施策だろう。一方、収益面での思惑も透けて見える。
サブスクリプションのメリットは2つ。ひとつは、安定した固定収入が期待できること。特に、買換えが面倒な家具の場合、契約満了後の「延長」や、「買取」(すなわち分割購入)になる可能性が高く、高収益が期待できる。
もうひとつは、値上げのステルス性が高いこと。つまり「値上げがバレにくい」のだ。
無印は、「定番で長持ちする『本物』の家具の新規開発を行う」とも述べている。品質も上がるが、価格も上がる。痛みを感じさせることなく、徐々に値上げできるサブスクリプションは、高価格化の布石としては有効だろう。
無印良品とは
設立当初「わけあって、安い」というキャッチコピーを使っていた無印。
現在は、
「 これ『が』いい、 ではなく、これ『で』いい」
を用いている。
このキャッチコピーを、無印ウェブサイトでは以下のように解説している。
無印良品が目指しているのは「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な満足感をお客さまに持っていただくこと。つまり『が』ではなく『で』なのです。しかしながら「で」にもレベルがあります。無印良品はこの『で』のレベルをできるだけ高い水準に掲げることを目指します。
(無印良品ウェブサイトより )
『で』のレベルをどこに置くか。それにより無印良品は、「有印不良品」にも「無印優良品」にもなりうる。
無印良品が「無印良品」のまま利益を回復できるか。それは『で』のさじ加減しだいだろう。