徴用工って何?(アーカイブ記事)

いわゆる元徴用工問題が、韓国政府が基金を設立して賠償を肩代わりする方向で決着しようとしていますが、この問題はもともと日本政府に賠償責任はなく、おわびや反省をする問題でもありません。2019年8月4日の記事の再掲です。

勝訴に沸いた元徴用工の原告側(KBSより:編集部)

韓国の大法院(最高裁判所)は2018年に元徴用工の請求を認め、韓国内にある新日鉄住金の資産を差し押さえました。これに対して日本政府は半導体材料の輸出について韓国の優遇措置をやめ、日本と韓国の関係は国交正常化以来最悪ともいわれる状況になっています。これはなぜでしょうか?

徴用というのは政府が労働者を工場などに動員する制度ですが、今回の裁判の原告は徴用ではなく募集です。戦前に日本で働いた朝鮮人労働者は20万人以上いますが、その人たちが給料をもらわないまま日本が戦争に負けたので、未払いの給料を払えという訴訟は昔からありました。

これについては1965年の日韓請求権協定で、元労働者の給料は韓国政府が日本政府に代わって払い、それをまとめて日本政府に請求することになりました。日本は5億ドルを韓国に払い、 韓国政府はこれを元労働者に払ってすべて終わりにするという形で決着したのです。

ところが 韓国の朴正煕大統領は、日本からもらったお金を政権のために使ってしまい、元労働者にはまったく払いませんでした。このため元徴用工が日本政府に対して給料の支払いを求める訴訟を起こしましたが、日本政府は日韓請求権協定で決着ずみなので応じませんでした。つまり徴用工問題は、慰安婦より前に決着のついた問題だったのです

それに対して慰安婦は日韓請求権協定のときには知られていなかったので協定の対象外だという理由で、その未払い賃金を請求しようと考えた日本の弁護士がいました。彼らは韓国で原告を募集し、 慰安婦の損害賠償訴訟を日本で起こしました。その弁護士の一人が(社民党議員の)福島瑞穂さんでした。

同じ論理で韓国政府も慰安婦への賠償を求めましたが、そのときは慰安婦は請求権協定の対象外だったから新たに賠償が必要だ、という話でした。これは1990年代のアジア女性基金や2015年の慰安婦合意で、日本が譲歩して終わったはずでした。

ところが2018年の大法院判決では、普通の労働者についても「不法な植民地支配による日本企業の反人道的な不法行為」に対する慰謝料は、日韓請求権協定の対象外だとしました。つまり植民地支配は強制なので、その時代の労働はすべて強制労働だというのです。

これは慰安婦が「広義の強制」だという人々の論理ですが、これだと請求権協定は意味がなくなり、戦前の朝鮮人労働者は、徴用も募集もすべて日本企業から慰謝料を取れます。元慰安婦はもう30人ぐらいしかいませんが、元労働者と遺族はその1万倍以上いるので、これは慰安婦よりはるかに大きな問題です。

他にもこの種の訴訟がたくさん起こされ、日本企業70社以上が対象になっています。これを放置すると、韓国にある日本企業が片っ端から訴訟を起こされ、資産を没収されます。そこで差し押さえられた新日鉄住金の資産が現金化される前に、日本政府は対抗措置をとったわけです。

それを「対抗措置は日本にとっても利益にならない」と批判する人がいますが、経済制裁というのはそういうものです。韓国のルール違反に何も制裁しなかったら、ますます違反はエスカレートし、日韓関係は国交のなかった1965年以前の状態に戻るでしょう。