日米韓連携の試練②:松川るい議員の対韓外交論に対するSNS上の反応

松川るい議員の「応募工問題」(いわゆる“徴用工問題”)に関する発言を端緒として、「認知戦領域における日本の弱点」が浮き彫りになった。前稿において、松川議員発言のうち波紋を広げた論点について整理した。

日米韓連携の試練:「応募工問題」と松川るい議員の外交技術論
松川るい議員の「応募工問題」(いわゆる“徴用工問題”)に関する発言が波紋を起こしている。『日曜報道THE PRIME』(2月5日)という地上波テレビ番組で展開した松川議員の対韓外交に関する考え方に、一部の識者や視聴者が異論を表明して...

続く本稿では、② SNS上の反応について確認し、松川議員と国民の認識の乖離部分を抽出する。それらについて、次回以降の別稿で検討し「認知戦領域における日本の弱点」を明確化する予定である。

SNS上で異論が観測された対韓外交論

おさらいとして、松川議員の発言のうち、SNS上で異論が観測された要点を整理すると以下の通り。

1. “徴用工問題”が日韓間の最大の「信頼関係を損ねている問題」。
2. 解決されたときに、当然日本政府も何かコメントを出す。
3. 尹政権の間でないと解決絶対できない。
4. 向こう(尹政権)がもつようにしてあげる、日本としてぎりぎりのことは考えるべき
5. これ(“徴用工問題”)を解決すること自体は日本の国益だ。

松川議員が出演し、上記の主張を展開したのは『日曜報道THE PRIME』(2月5日)という地上波テレビ番組で、5日(日)の7:30~8:30にかけてである。番組放映中から自民党の佐藤正久議員がツイッターで論評していたように、異論を表明する反応は番組終了を待たずに起きていた。

ここではSNS上の反論(反応)から、人気作家であり著名な論客でもある門田隆将氏のツイートにフォーカスを充てて検証して行く。氏の影響力が段違いだからである。まずは当該ツイートと一連の流れを追って行く。

人気作家、門田隆将氏のツイート

門田氏は放送終了から約7時間後、ツイッターで次のようにコメントした。(12日現在1.7万件の「いいね」)

門田氏は更に、先のツイートをリツイートして次のようにコメントした。

政権が変われば前政権の業績を否定し、対外的な約束までも破棄するという韓国の特性に鑑み、「またしても騙されること」を危惧したコメントまでは意義もある。だが「どうぞ日韓利権に群がって下さい」は残念である。

もとより論評は自由である。しかし門田氏は大人(たいじん)である。決して「ルサンチマンを刺激して群衆を扇動する、論理破綻した活動家」ではない。社会からあつく信頼され、影響力もある門田氏が、公的な存在である議員をここまで論評するならば、その根拠も明示されたい。なぜなら無名の一般人ではないのだから。

松川るい議員の反論ツイート

1回目のツイートはスルーしていた松川議員も2回目には呼応して補足説明を開始する。

確かに門田氏の「万能感に満ちた“秀才クン”達の霞が関官僚」、「国家観や国の誇りという感覚のない政治家」、「安倍元首相がいなくなれば忽ち立場を変える」は、誹謗の色彩を帯びていると、私も感じる。

松川議員は、以下のツイートに始まる16連投の投稿で、真意を補足説明した。なお、長い文章になるので、第2稿以降は要点のみ列挙する。

  • 日本にとっての当面の最大の外交安全保障上の課題は、台湾有事の抑止
  • その際には中ロ連携のみならず北朝鮮の陽動もありうる
  • 60万人の軍隊を抱える韓国(自衛隊は25万人)が我々と同じ側にいるのかどうかは日本にとって重要だ
  • 中国は台湾統一に備えて軍備増強を着々と進め
  • 北朝鮮は昨年だけで73回ものミサイル発射
  • ウクライナ戦争中のロシアは日本を非友好国と認定
  • 歴史問題を除けば、有意な戦力を持ちつつ戦略的利益を共有できる国は韓国だけ
  • 今以上に、日米韓安保協力が重要な時はない
  • ユンソギョル大統領は稀有な人。韓国は日本に耳障りの良いことを言って票の増える国ではない。
  • 支持率20%の時も日韓関係改善の姿勢を維持したのは大したもの
  • 韓国としても米韓同盟及び日米韓協力が不可欠だと思うがゆえ
  • 徴用工の問題は、はっきり言って、史上最悪のムンジェイン政権の下で捻出された問題
  • その尻ぬぐいを伊政権がやり、韓国政府自身で完結して現金化をとめて解決可能な案を出した。
  • それが成立して日韓関係が正常な軌道に乗ることは日本の国益にとってプラス。
  • 65年協定で解決済の問題をリオープンしたのは韓国。ゆえに韓国自身が解決すべき問題。それを今ユン政権がやっている。
  • 韓国にも世論がある。日本に対する屈辱外交と言われながら貫徹するのは尹政権とて難しい。
  • 第二次安倍政権時代に韓国との歴史問題はリセットした(私自身が最前線)。
  • いわれなき謝罪はするべきではない。
  • 伊政権の姿勢を評価するとか、解決すれば明るい未来があることを示して、伊政権が韓国自身で本件問題を解決することを称揚することは、日本自身の国際環境を良くする上で有意義だ。
  • 輸出管理の件について言えば、地上波で時間がない中詳しく話せなかったが、徴用工とは別問題だが、韓国側は解除を求めており、WTO提訴もしている。
  • 輸出管理の件は、①実際に、韓国の措置が甘くて心配、②日韓輸出管理当局間の対話が途絶え信頼関係が持てなくなっている、ことに起因
  • ①については、韓国は人員増やしての体制強化などに取り組んだと言っている(要確認)。
  • ②については、日韓輸出管理当局間の対話が途絶えたのもムンジェイン政権の下で「徴用工」問題が蒸し返され日韓間で正常な関係がなくなったから。
  • ゆえに、徴用工問題の解決の道筋がつけば、日韓輸出管理当局間での意思疎通も正常化される。
  • 輸出管理の問題は、韓国の能力面での改善(①)を確認でき、韓国の輸出管理体制改善を確認し、当局間での意思疎通が正常化すれば、元に戻すことは、特に日本がなにかを曲げてやる筋のことではない。
  • 無論、韓国のWTO提訴取り下げも込みであることは言うまでもなく当然のこと
  • その他にもGSOMIA正常化など様々なことがある。
  • しかし、全ての元凶は「徴用工」判決の問題である。
  • 韓国自身が起こした問題を韓国自身で解決しようとしている。
  • 日本の譲れないラインを譲るべきではないが、可能な範囲で尹政権ができるだけ仕事をしやすいようにするのは日本にとって望ましい結果をもたらすために重要である。
  • 外交というのは、自分が正しいと思うことを唱えていれば上手くいくという類ものではない。
  • 大抵、相手国は「違う世界」に生きており、その世界観を変えるのは「帝国」であっても難しいことである。それを前提に、いかに自国の国益を守るか、その技術が外交である。
  • 韓国は政権が左派に変わればまた揺り戻しはあるかもしれない。
  • だからこそ、今、日韓関係改善と中国、北朝鮮についての脅威認識が共有可能な極めて稀な伊政権の下で、日本にとってよりよい環境を作りだし、その関係の後退に歩留まりをもたらす「制度化」の工夫をするべきだ
  • 伝わる人には伝わったらなとも思う。
  • 門田先生宛てのメッセージ風になりましたが、皆様宛てである。
  • 私も日本の国益以外は考えていない。
  • 日本という国の地政学的条件は変えられない。
  • 厳しい時代にいかにして日本を守り抜くか、次なる繁栄に繋げていくか、心ある人は皆そう考えていることと信じる

門田隆将氏の返答

上記のような松川氏の返信に対して、改めて門田氏から次のようなリプライが発信された。

残念ながら議論の論点がかみ合っていないようだ。

そのすれ違いの原因は(門田氏も博識で情報の豊富な方であるが)松川議員の視野には、門田氏の念頭にあるものよりも上位の「国益」が入っていると思われるためであろう。

この「国益」は安保3文書の一つ「国家安全保障戦略」に明確に規定されているのだが、多くの国民が想起する国益は千差万別なので大抵の議論がすれ違う原因となる。

松川議員が目指す国益(大目的)のためには、門田氏が問うところの「日韓関係が良くなること」は小目的であって、大目的実現のための手段に過ぎない。更に言えば、環境変化に伴い、一過性だとしても防衛に関する連携を深める機会を掴むことは喫緊の課題である。この点は、次回以降の稿で説明して行く。

門田氏と松川氏のツイート往来に関する反応

門田氏の1回目(5日)のツイートはおよそ153万件表示され、約1.7万件の「いいね」がついた。これは表示の1.1%に相当する。一方3回目(7日)のツイートはおよそ165万件表示され、約1.1万件の「いいね」がついた。これは表示の0.67%に相当する。変化の様子は下記のグラフの通りとなる(単位には注意頂きたい)。

「いいね」は100%「賛同」ではないので単なる目安・印象論に過ぎないが、反応を見る限り、門田氏が表明した見解を支持する人は少なくないとみてよいだろう。

ただし、「いいね」を押した閲覧者がおよそ3割減少したことは、間に挟んだ6日の松川返信が一定の効果をもっていた可能性を示唆している。

また、7日の門田返信に反応した閲覧者のうち、積極的に返信をして「参加」したアカウントが344件(5日のツイートでは895件だったので6割減)あった。この344件のうち、閲覧可能だった207件について、その内容を精査し、意図が明瞭な意見を275点確認したので、それを分類したのが、次のグラフ3である。

ここに、松川議員と当該返信参加者(:本稿では“一般国民”と呼称)との間に、何点かの認識相違が確認できるので、主なものを以下の通り列挙して行く。

1. “徴用工問題”が日韓間の最大の「信頼関係を損ねている問題」か

松川議員:“徴用工問題”が日韓間の最大の「信頼関係を損ねている問題」
一般国民:「政権が変わればちゃぶ台返し」や「竹島」など、複数の深刻な問題を意識

2. 日本政府追加的コメント

松川議員:“徴用工問題”が解決されたときには日本政府も当然コメントする
一般国民:「完全に韓国の国内問題」「おわびのおかわりは不要」「また騙されるのか」

3. 尹政権の間でないと解決できない

松川議員:尹政権の間でないと解決絶対できない
一般国民:「政権が変わればどんな約束もまた破られる」「また騙されるのか」

4. 尹政権がもつようにしてあげる

松川議員:尹政権がもつようにしてあげる、日本としてぎりぎりのことは考えるべき
一般国民:「譲歩は一歩たりともすべきではない」「安倍・菅路線を厳守せよ」

5. “徴用工問題”を解決することは日本の国益

松川議員:激化した環境を考えれば、韓国と連携できるようにすることは日本の国益
一般国民:「韓国に譲歩することは国益を棄損」「信用できない韓国を自陣においておくことに国益はない」

以上SNSの反応に焦点を当ててきたが、松川議員の詳細説明ツイートをもってしても、“一般国民”との間の溝があまり埋まっていない。その原因は一体何なのだろうか。

簡単に言えば、「見えているもの(国際環境)」の深さと、「国益」の定義の違いである。次稿ではその背景と原因を分析して行く。

(次回につづく)