ロシアによるウクライナ侵略が始まってから、まもなく1年が経とうとしています。最近は、マスコミ各社が「ロシアの大攻勢」に関する記事を毎日のように掲載しており、日本の消費者もこの件に関して関心が高いことが伺えます。
ロシア政府は「大攻勢」について特に何も発表していませんが、一部ではすでに始まっているという指摘もあります。
一方で侵略をしている側のロシア軍に多大な死傷者が出ているという報道もあります。NHKは2月12日に『ロシア軍の死傷者数が急増「侵攻直後以来の多さ」の分析も』と題する記事を掲載し、「直近の一日当たりの死傷者数は平均824人と、去年6月から7月のころと比べて4倍以上になっている」と発表しています。
NHKの記事は間違いではないものの、ウクライナ戦争の長期的な戦況を説明するには不十分ではなかろうかと、私は感じました。
NHKの記事はウクライナ軍参謀本部のデータを元に書かれていますが、MoD UKはこのデータをグラフにして掲載しています。
これを見ると、ロシア軍の一日当たりの死傷者数は、昨年12月の微減を除いて、2022年6月からずっと増加し続けています。つまり死傷者数ベースで考えれば、ロシア軍にとって戦況はもう何ヶ月もずっと悪化する一方です。最近、急に悪化したわけではありません。
(余談ですが、ロシア政府が「部分的動員令」を発表したのは2022年9月でしたが、1日あたりの死傷者数はその後に急増しており、「部分的動員令」で前線に送り出された経験の浅い動員兵がかなりの部分を占めているのではないかと思われます。)
ロシア陸軍の主力である戦車のデータはどうでしょうか。ウクライナメディアではありますが、キーウポストがオランダ軍の分析グループであるオリックスのデータをまとめて記事にしていました。
ロシア軍には2022年2月に3300両の主力戦車があり、8000〜10000両を保管していました。2023年1月31日の段階で、ロシア軍は1661両の戦車を失ったとオリックスは推定しています。またウクライナ陸軍参謀総長は、これまでに3601両の戦車を破壊や鹵獲してきたと主張しています。時系列データはありませんが、ロシア軍が今回のウクライナ戦争で大部分の戦車を失ってきたことが伺えます。
NHKの記事にもありましたが、これほど被害を出し続けているのであれば、現場の士気が下がるのも仕方のないことだと思います。おそらく最前線の兵士には、この戦争の「意義」や国としての誇り、政府の名誉など、もはや考える余裕もなく、ただただ生き延びたいとしか考えることができなくなっているはずです。
ロシア軍のウクライナ侵略は許すことのできない行為ですが、同時にそのような状況に置かれたロシア軍兵士は悲惨でしょう。こうした悲惨な状況に追い込まれているロシア軍兵士のことも忘れてはならないと、私は思います。
■
大田 位(おおた ただし)
社会人。日本に関連しそうな海外記事が好き。