失敗しないと分からないことがある:コンプイアンスの塊の時代に

「故豊田章一郎氏『失敗しないとわからないことがある』」という日経の記事は我々の世代に響くものがあります。

「父親(トヨタ創業者・喜一郎氏)が昔、小さな車を自分で運転し、家の周辺をぐるぐる回っていたことがありました。試運転だったのか。ところが、途中で車がひっくり返ってしまった。あまり運転はうまくなかったのでしょう――」。あまり運転がうまくなかったから横転したというのがポイントではなく、うまくないと横転する車ではダメだ、という発想は横転したからこそ、わかったことなのだ、という訳です。

豊田章一郎氏 NHKより

記事には1957年にクラウンをアメリカに輸出したら高速道路の合流でエンジンのパワーがなくて苦情が殺到したという失敗の例もあり、それは輸出までしてようやく気がついた絶対的エラーともいえましょう。それがあったからこそ、今のレクサスの礎になったと記事はまとめています。

私がまだ20代前半だった頃の自動車運転の話です。小雨の早朝、坂道を下りきったところを右に曲がるという大きな交差点で信号が変わりそうになったので急いで坂を下ってハンドルを切ったら車がスリップしてくるくる回ってしまい、1.5回転ぐらいして止まりました。幸い、誰にも当たることなく、交通量もほとんどない時間帯だったので恥ずかしい思いをして、そそくさと現場を離れたことがあります。その時、「わかっちゃいるけどこういう運転だと本当にこうなるのだ」ということを体得したわけです。

また、小中学生の頃、自転車のブレーキワイヤの留め方がイマイチで、ワイヤが止め金具から外れてブレーキが利かなくなったことが4-5回あります。そのたびにどう直せばよいのか、なぜ、こういう事態がおきるのか、ブレーキが利かなくなって壁にぶつかって血を流して痛い思いをしたので今、自転車の整備をする際に気を付けるのはやっぱりブレーキなのです。

今乗っているBMWのX3とGTRを乗り分けていると正直、乗り心地はBMWの方がはるかに良いのですが、安全性に於いてはGTRのほうが優れていると感じることがあります。それはブレーキです。スポーツカーは性能が良ければよいほど強力なブレーキを必要とします。GTRはまさにそれで、加速感もよいですが、街中ではむしろ絶対的なブレーキ性能が私を虜にするのです。結局、20代のあの経験がもたらしたものは制御性能への絶対的な依存であったのかもしれません。

「失敗しないと分からないことがある」というのは我々は失敗を許されていた世代である、とも言えます。多少、やんちゃしても会社は大目に見てくれたし、コンプイアンスの塊でもなかったのです。私の会社人生なんて成功の10倍ぐらいの失敗があり、会社はよくもこれだけやんちゃな社員を大事にしてくれたものだと未だに頭が上がらないのです。しかし、それゆえにバンクーバーの事業では会社に相当の恩返しも出来たし、独立後の自分もあるのです。

私は常に新しい世界にチャレンジをするのでこの歳になっても全く違う世界で未知の挑戦をしています。先日も東京で27歳の取引先担当者に「驕るからいろいろ教えて欲しい」とお願いし、飲み屋で6時半から11時までがっつり話をして未体験ゾーンを勉強しました。その翌日には秋葉原のディープなオタク系会社の営業担当者からまるで子供にモノを教えるような感じでポイントを伝授してもらうことが出来ました。営業担当のその外国人女性に「秋葉原のディープなところはこんなおっさんには恥ずかしいです」と泣きを入れたら「仕事だと思って頑張って。これから〇〇ビルの4階のショップをじっくり見て研究してきて」と笑顔で送り出されて勇気をもってしっかり勉強してきました。ちなみにこの会社はフィギュアの世界では知る人ぞ知る会社で、行ってよかったと思います。

ただ、その営業担当者が「海外営業だから今、海外から商談にくるお客さんが少なくて、今週はあなただけ。嬉しい」と言われました。その意味は今やネットで何でもできる、故に画面を見て発注して、という流れで別に営業担当者がなにかしなくてはいけないわけではない、とも言えます。

しかし、世の中ネットで全部解決できるわけではないし、大事なことを見落としていることもある、それが大失敗に繋がることもある、という気持ちで失敗を恐れず、恥を忍んでチャレンジするようにしています。

今の会社運営は過去の失敗をベースに「これ以上失敗しない経営」をしています。それは大事なことなのですが、失敗が出来た昔は良いけれど、これから失敗を回避することが当然の帰着となったら、今後、誰がどうやって失敗するのだろう、という疑問はあります。

言い換えれば誰も失敗をしないということはそれ以上にもならない、ともいえるのです。例えば海外進出をしたいという会社はたくさんあると理解しています。だけど、どうやっていいかわからないで止まってしまっているのです。一歩踏み出してみる、それが重要でしょう。その結果、大失敗するのです。ブリヂストンのファイヤーストーン買収しかり、サントリーのビームス買収しかり。社長が直接乗り込んで体制を再構築したが故の今であるとも言えます。

険しい山の向こうには花咲き乱れる春があるのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月17日の記事より転載させていただきました。