お金持ちより時間持ちになりなさい

黒坂岳央です。

「お金持ちになりたい!」というのは多くの人の悲願だろう。よく聞く話に「収入が少ないと生活のための労働に追われるので、時間貧乏になる。お金持ちは外注して時間を買っている」がある。これは本当だろうか?

筆者はお金持ちと時間持ちは別のパラメータであることを論理的に導けると思っている。その言語化に挑戦したい。

Nuthawut Somsuk/iStock

忙しいお金持ち

「お金持ちは暇だ」と言われる。たしかに個人投資家の一部はそうだろう。しかし、少なくとも自分の身の回りにいる資産10億円以上の経営者たちはものすごく忙しそうに見える。70歳を超えても尚、精力的に売上を作るために人的ネットワーク形成に奔走する人や、積極的にメディアに出て知名度アップを目指す人は結構見てきた。

これは自分の周囲の人だけではないはずだ。たとえば、トップYouTuberたちは20代・30代にして誰がどう見てもすでに一生働かなくても生きていけるだけのお金を持っている。だが彼らは忙しく動画を出し続け、「投稿を続けるのはとても大変!」と発言する。

彼らの場合は「自分が好きなことを集めて勝手に忙しくなっている」という状態に近いと言える。これは最高に幸せな生き方の一つだろう。だが、その一方で一部の人の中には「せっかく得た地位や影響力を失いたくない。オワコンになりたくない」という気持ちを持ちながら仕事をしている場合も確実にある。件の経営者の一人は「社長!と周囲から呼ばれなくなるのが寂しいから引退できない」と言っていた。ビジネスは石臼に似ている。臼を回す手が止まったら再度動かすのが難しくなるのを恐れてのことだろう。

昨今、時短とかタイムパフォーマンスといった言葉が踊り並び、カジュアルに家事外注サービスなどが広がっている。便利になった。しかし、世の多くの人たちは浮いた時間をのんびり過ごす代わりに、さらに仕事に打ち込むことに使う。これでは永遠に忙しいままだ。今の生き方に100%満足しているなら問題はない。趣味と仕事がイコールの状態だからだ。しかし、地位を失う強迫観念で働いている人の場合、これは資産リッチでも時間リッチとはいえないだろう。

時間リッチのすすめ

この記事を書いている著者には影響力も知名度も何もなく、誰かに自慢できるような大物ではない。でも自分は現在送っている自由度の高い生活を大変気に入っているし、今後も努力してビジネスを最大限スケールしたいともまったく思わない。自分は資産リッチより時間リッチであり続けたい。

ありがたいことに今は比較的自由な生活を送っている。家事育児関連のタスクだけは完全に縛られているが、それ以外の早朝から夕方16時までは自由である。どこで何をやってもいい。「同じ時間を過ごすなら、売上を最大化させるための行動だけをやろう」とは思ってはおらず、仕事は趣味と完全に同じ。時には仕事以外に時には好きな読書を楽しんだりゲームをすることもあるし、どうしても仕事の気分にならない日は、漫画喫茶でひたすら漫画を読んだり、百貨店で朝から北海道展で食べ歩く日もある。筆者は大富豪などではないが、ある程度の蓄財が進んだ段階で、資産リッチより時間リッチを目指す方がQOLが高められると思っている。

非生産的な時間を過ごし「ああ、ムダな時間を過ごした」と後悔し、自分を責める時期が昔はあったがもうやめた。自分にとって時間の過ごし方の正義とは「楽しければOK」である。この記事も自分の地位を高めたり、原稿料を稼いで…といった目的でやっていない。記事を書く過程で思考トレーニングになり、ある程度読まれたら自分にとっては二重丸である。つまり、楽しいからやっている。

そして、楽しい時間を過ごす方が仕事におけるクリエイティビティも高まると思っている。自分は英語を教えているが、内容は英語学習一辺倒ではなく、勉強法や人生論、哲学や心理についても話すこともある。

売上至上主義ではなく、楽しさ至上主義でやっているから英語以外の分野の話も盛り込むこともある。しかし、結果的にこのスタイルを気に入ってくれる視聴者が動画を見てくれ、応援のメッセージをくれる。

時間リッチで余裕があると楽しい時間を過ごすことができ、楽しい時間で制作したものの方が焦ってイライラしながら作る成果物より良いものができると思うのだ。もちろん、時代に置いていかれないための危機感は常に持っているが、恐怖を感じて勉強しているというより新しいテクノロジーや知識を学ぶのが楽しいという方が勝っている感覚がある。

自分はお金についてはかなり冷徹に考えている。お金なんて究極的には食べ物や体験などの引換券に過ぎないという考え方だ。一生使う予定もない引換券を必死に集める結果、時間貧乏になって辛い毎日を送るのは本末転倒だ。だが時間は違う。時間は命そのものである。人間は与えられた時間しか生きられない。だからこそ、お金より時間の過ごし方を優先するべきだと思うのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。