プーチン、宇宙の神聖さから学べ:第3次世界大戦の勃発を懸念する声

ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて今月24日で1年目を迎えた。ウクライナでは1000万以上の国外難民、国内避難民が出てきた。兵士だけではなく、多くの民間人が亡くなった。ロシア側も無傷ではなく、数万人の若い兵士が亡くなり、負傷した。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が配信した最初の画像(2022年7月12日、NASA提供)

プーチン大統領によれば、ロシア軍のウクライナ侵攻はウクライナの非ナチ化、非武装化が目的の「特殊軍事行動」だったが、現在は「ロシアと西側」との戦いになってきたという。プーチン大統領はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止が狙いだったが、プーチン氏が始めた戦争の結果、これまで中立国だった北欧のスウェーデンとフィンランド2国がNATO加盟を申請し、ウクライナは欧州連合(EU)の加盟候補国になった。プーチン氏の狙いはウクライナ東部の一部領土の獲得以外は悉く外れた。

プーチン大統領は21日、年次教書演説の中で戦争の責任を西側にあるとし、「ロシアは戦いに勝利しなければならない」と檄を飛ばした。一方キーウ、ワルシャワを訪問したバイデン米大統領は「ロシアを勝利させてはならない」として、欧米諸国の結束とウクライナへの全面的支援を呼び掛けた。同時期に、中国の習近平国家主席は中国外交のトップ、前外相の王毅・共産党政治局員を第59回「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)、ハンガリー、そしてロシアに派遣し、世界に向かって中国のウクライナ和平案を提示する考えを示唆し、大国・中国の存在感を誇示しようと腐心した。

米国、ロシア、そして中国の3大国の指導者たちはウクライナ戦争勃発1年目を前に、それぞれの立場を表明したわけだ。世界の政治情勢はウクライナ戦争を契機として緊迫度を深め、世界的なレベルの危機となってきたことは確かだろう。エネルギー価格の急騰、食糧不足などで人間の基本的生活基盤が揺れ出し、多くの人は未来に対して不安を感じてきた。第3次世界大戦の勃発を懸念する声すら聞かれる。

ウクライナ戦争1年目を迎え、ロシアやウクライナの戦争当事国だけではなく、大きく言えば、人類が今最も必要としているのは地球の重力から解放された思考、世界観の確立ではないか。

2012年2月、スペインのラサグラ天文台が発見した小惑星「2012DA14」が地球に接近しているというニュースが流れた時だ。米航空宇宙局(NASA)によると、小惑星は地球から約2万7000キロメートルまで接近するから、静止人工衛星より地球に近いところを通過するという。小惑星は大きさが45~50メートルで推定13万トン。地球に衝突し、海面に落ちた場合、津波が生じるだろうし、都市に落下した場合、かなりの被害が考えられたが、幸い、小惑星は地球に衝突せずに通過した。

小惑星の衝突は過去にもあったし、将来も考えられるが、惑星の軌道を正確に計算できない限り、予測が難しい。小惑星の急接近は、一時的にせよ地球上の紛争やいがみ合いを忘れさせ、私たちの目を宇宙に向けさせる機会となった(「『思考』を地球の重力から解放せよ」2013年2月9日参考)。

ハップル(Hubble)の後継者、ジェームズ・ウェッブ(James・Webb)宇宙望遠鏡から配信された最初の写真を見た時、感動が大きかった。30年間、約2万人のエンジニア、プランナー、研究者が参加し100億ドルをかけて建築されたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡から送られた画像を始めてみたボルチモアの宇宙望遠鏡科学研究所のクラウス・ポントピダン氏は、「天文学の新しい時代が始まろうとしていることに誰もが気づくだろう」とその感動を語ったほどだ(「戦争報道写真と宇宙からの『画像』」2022年7月13日参考)。

ウェッブの使命は、宇宙の果てまで見ることだ。若い宇宙の真っ暗闇の中で最初の星が発火した瞬間を撮影する、という目的だ。独週刊誌シュピーゲル電子版は、「聖書の創世記第1章『神は光あれと言われた、すると光があった』という瞬間をキャッチすることだ」と説明している。

オーストラリアのスウィンバーン工科大などの国際研究チームが今月22日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表したところによると、「地球から131億光年以上離れた遠い宇宙に、質量が非常に大きな銀河とみられる6個の天体を発見した」という。この発見もジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の成果だ。

ウェッブ宇宙望遠鏡から届く画像やデータを見ると、眩暈を覚えるほどだ。その無限な天体に圧倒される。人類は過去から現在に至るまでいがみ合い、戦争を繰り返してきた。そのことが地球という惑星に住む人類の汚点と感じるほど、宇宙は無限な神聖さを秘めている。

プーチン大統領はクリミア半島もドンバス地方もロシア領土と主張して戦争を始めたが、そのナラティブ(物語)にどれだけの真理があるのか。習近平主席は一つの中国を主張し、「台湾は中国領土」と豪語しても、その世界観は余りにも小さい。

人類の生活、思考も地球の重力の影響を受けてきた。トランプ前米大統領はアメリカン・ファーストを宣言したが、地球オンリー的な思考から抜け出すことができないでいる。ウェッブ宇宙望遠鏡がもたらす天体の画像は、私たちに地球オンリーの思考、世界観から脱皮すべき時を迎えていると告げている。プーチン氏よ、宇宙に目を向け、新たなナラティブを学べ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。