それでも値上がりする不動産価格は人口が支え:22年の人口は78万人減

アメリカの12月の住宅指数が前年同月比6.6%上昇したと報じられています。ただ日経は報道に色を付けており、見出しに「2年6カ月ぶり低い伸び」とつけています。つまり、どうしても住宅価格は低迷し、業界には厳しいものがあると言いたいわけです。記事の中身も当然ながらネガトーン一色なのですが、どう見ても前年比6.6%上昇って悪くないじゃないですか?なぜ、そこまでこじつけるのでしょうか?

Juergen Sack/iStock

私は不動産を生業としているのでいろいろ思うところがあるのですが、割と誰も思いもしない着眼点がいくつもあります。その中で今日は、土地と建物について考えてみます。

人はなぜ、長期ローンを組んで必死にローンを返済しながらも住宅を欲するのでしょうか?基本は衣食住の必然性と同じで住むところは確保したい、できればより良いところでより広いところが欲しい、と思うのは洋の東西を問いません。つまり、住宅という器が欲しいのです。故にマンションのようなコンクリートの箱でも喜んで1億円前後の大枚をはたくわけです。

では土地とは何か、といえばそれはよりマクロ的な国家や地域の基本価値を表すものだと考えています。例えば日本が80年代のバブルになった時は器である住宅部分も上がりましたが、土地の部分の価値がより高騰したのです。それは土地から生み出される経済価値がどれだけあるか、という尺度が土地取引における価格決定要因になるためで現在のように一部の繁華街や人気ある場所の土地は上昇しているものの基本的には日本で土地の価値が上昇する要因は少ないのです。

例えばインフレになれば土地の価値は上がります。なぜなら見かけの一般物価が上昇するなら土地価格も上昇しない理由は無いからです。これをわかりやすく例えると給与のベアのようなものです。つまり土地はベースであってベア=ベースアップが土地価格の上昇だという訳です。

他方、建物は建築工事という資材と人材による加工作業ですからあくまでもそのコストプラスという考えで供給できる金額が決まるわけです。近年のマンション価格の高騰はどちらかと言えばこの建設コストの増加が主因だとみています。なのでこれも一種のコストプッシュ型のインフレとも言えます。

先日、ある木材関係の商社の方と話をしたのですが、住宅建材の需要は今後も旺盛でウクライナやトルコなどでの住宅需要が今後相当あることから世界ベースでは引き続き引き締まるだろう、とコメントしていました。一方、日本の建設従事者は97年の685万人から21年には約3割減の485万人まで下がっています。それこそ、将来は職人がいないという話も出てくるのです。とすれば今後も住宅コストは高止まりするだろうと予見できます。

もう一つ、住宅は住む人がいないと需要はありません。2022年度の出生者数が80万人を切ったと報じられています。政府は少子化対策といって様々な施策を施そうとしていますが、それは少子化対策ではなく、「子育て対策」なのです。そもそも結婚して子供を作るというその前段の部分が成り立たないケースは日本のみならず、世界の先進国、中進国のトレンドであってそこに目を向けないと少子化対策などできないのです。

日本は70年代半ばから少子化がストレートラインで進んでいます。住宅の第一次購入者層の平均年齢は概ね40歳。ということは82年生まれですから既に減少ラインの突入しています。一方、二次取得者層の平均年齢が概ね55歳なので68年生まれあたりになります。ということはあと6-7年で第二次取得者層もピーク打ちとなり、その頃からいよいよ本格的に日本の住宅市場は冷えてくるとみてよいかと思います。冷えるとは土地の価格が下がります。但し、建物の建設費は下がらないので土地建物の合算額は相殺し合って変わらないという予想をしています。

住宅価格は結局人口が増え、国家の経済力が上昇するところが強いのです。アメリカやカナダが必死に移民政策を続けているのは経済の歯車を回し、優秀な若年層を自国に取り込み、自国内の生産性を高め、住宅も取得してもらうという政策を長年推進しているとも言えます。

日本の場合、移民受け入れは相当の抵抗力がありますが、そもそも外国人も日本に移民する人は少ないのです。(私の言う移民とは永住権です。数年単位の労働許可ではありません。)理由はまだまだ異国人を受け入れる社会的インフラが十分ではないからです。そうなると地方を中心に厳しい経済環境は続くと思います。TSMCが熊本に出来るので地元は湧いているようですが、彼らの計画従業員数は1700人しかいないのです。ラピダスが北海道千歳に同様の投資をしますが、従業員数は同様でしょう。半導体はロボットが作るのです。もちろん関連の会社群も進出してくるので全体では相応な人数にはなると思いますが、不動産価格の維持という点からするとなかなか厳しいものがあると思います。

22年の人口は78万人減です。こうみると不動産価格の下支えは今後、政府の大きな課題になるとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月1日の記事より転載させていただきました。