ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は2月28日、イランの核関連施設で濃縮ウラン83.7%が発見されたことを確認した。兵器用濃縮ウラン90%までもはや手の届くところまできていることから、IAEAはイランの核開発計画の現状に警鐘を鳴らしている。
IAEAの最新イラン報告書によると、「濃縮ウラン83.7%の痕跡は、今年1月、イラン中部フォルドウの地下ウラン濃縮施設の検査中に発見された」という。イラン当局はIAEAに対し「非常に高いレベルの濃縮は意図しない変動で生じたもの」と弁明しているという。イランのアミラブドラヒアン外相は2月27日、グロッシ事務局長を近日中にテヘランに招き、協議する予定だと明らかにした。今月6日から開催されるIAEA定例理事会(理事国35カ国)でイランの核問題が大きなテーマとなることは必至だ。
報告書によると、イランは濃縮ウラン20%のウランを約435キログラム保有しており、昨年11月の前回報告書のときより48キロ増えている。ウラン60%の在庫は25キロ増え、現在88キロ近くある。グロッシ事務局長は「濃縮活動が進めば、イランはいくつかの核兵器に十分な濃縮ウランを持つことになる」と指摘してきたが、今回、83.7%濃縮ウランが検出されたことで、イランの核兵器製造という悪夢は現実化してきている。
イランは2015年7月、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国と核合意を締結し、イランの核開発計画があくまでも核エネルギーの平和利用と主張してきた。イランの核合意の代わりに、制裁を解除することになっていた。しかし、トランプ米前政権は2018年5月、イランが核合意の背後で核開発を続行しているとして核合意から離脱。それ以来、イランは順次に核合意で締結した合意内容を破棄してきた。
イランは19年5月以来、濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、ウラン濃縮度も4.5%を超えるなど、核合意に違反した。19年11月に入り、ナタンツ以外でもフォルドウの地下施設で濃縮ウラン活動を開始。同年12月23日、アラク重水炉の再稼働体制に入った。20年12月、ナタンツの地下核施設(FEP)でウラン濃縮用遠心分離機を従来の旧型「IR-1」に代わって、新型遠心分離機「IR-2m」に連結した3つのカスケードを設置する計画を明らかにした。
そして、21年1月1日、同国中部のフォルドウのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げると通達。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。4月に入り、同国中部ナタンツの濃縮関連施設でウラン濃縮度が60%を超えていたことがIAEA報告書で明らかになっている。なお、イラン議会は20年12月2日、核開発を加速することを政府に義務づけた新法を可決した。そして今回、ウラン濃縮83.7%の製造だ。
また、イランはIAEAの査察を制限し、未申告の核関連施設から検証された核物質について、IAEA査察官のアクセスを拒否してきた。欧米側はイランとの核合意の再建のためにイランと交渉を再開したが、ここ数カ月間、交渉は停止状態だ。イランの核開発計画は核拡散防止条約(NPT)など国際条約の違反であり、国連安全保障理事会決議2231と包括的共同行動計画(JCPOA)への明らかな違反だ。
ブリンケン米国務長官は1月29日、訪問中にアル・アラビヤ放送とのインタビューで、「イランには核合意に戻るチャンスがあったが、それを拒否した。イランの核問題では、全ての選択肢がテーブルの上にある」と語り、軍事的オプションをもはや排除しない考えを強調した。
一方、イランの核武装化を恐れるイスラエルは、「テヘランが核兵器を保有することは絶対に容認されない」と指摘、必要ならばイランの核関連施設を空爆すると警告してきた。イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破したことがある。同時に、イランで過去、同国の核開発計画に参加してきた核物理学者が射殺や爆死されてきたが、その背後にはイスラエルのモサドの工作があったといわれている。
現在、核保有国は米、英、仏、ロシア、中国、インド、パキスタン、イスラエル、それに北朝鮮だが、10番目の核保有国として最短距離にいるのはイランと受け取られている。イランの核兵器を最も恐れているのは宿敵イスラエルだが、スンニ派の盟主サウジアラビアもイラン(シーア派)の核兵器開発をただ静観していることはないはずだ。同じことが、エジプトにもいえる。イランの核兵器製造は中東・アラブ諸国に大きな波紋を投じることは必至だ。
なお、イランのIRNA通信によると、イランのアミール・アブドラヒアン外相は先月28日、軍縮会議のハイレベル・セグメントで、「JCPOAの現在の状況は、米国の政策の誤算と誤りの結果だ」と述べる一方、「イランの核計画は完全に平和的であり、それは永遠に変わらない。イランは包括的保障措置協定の下での義務に完全にコミットし続ける」と強調。同時に、「わが国に対し、次期IAEA理事会で賢明でない決定が下された場合、対抗措置を取る用意がある」と警告している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。