若者を惑わせる「おっさんビジネス用語」問題

黒坂岳央です。

SNSで「おっさんビジネス用語」が話題になっている。50代以降のおっさんが職場で使うも、20-30代には通じずに困惑するという。用語には「鉛筆なめなめ」「一丁目一番地」などがあり、おっさんの年代である筆者も話題になっているビジネス用語リストを見て「えいや」以外はまったくわからなかった。確かに会社員の頃におっさん用語を使う人はどの職場にも一人、二人はいた記憶がある。

結論として個人的に「おっさんビジネス用語」を含め、特殊語はビジネスの場で使用するべきではないと思っている。下手をすると相手に悪印象を与えかねない。

gradyreese/iStock

ビジネスで使うべきではない特殊語

おっさんビジネス用語に限らず、世の中にはコミュニケーションをする上で特殊語は意外とある。「り」「あね」といった若者言葉、「うp」「おk」といった古いネットスラング、「アジェンダ」「コアコンピタンス」といった外資語などがそれにあたる。これらは通じ合う相手、気心の知れた相手に使うことで心理的距離を縮める効果が期待できる。

たとえば「うp主」「うぽつ」と発する人を見れば「もしかしてニコニコ動画が好きなユーザーなのかな」と推測することができ、そこからニコニコ動画についての話題で盛り上がる可能性はある。実際、これは自分自身が経験済だ。外資系にいた頃は「ファイナリー、カムトゥーコンクルージョンでホッとしたよね」みたいな会話は自然にあった。しかし、これらを外の世界で知識がない人の前で同じことをすると「こちらへの配慮がない」と反感を買う可能性は否定できない。

自分自身、ビジネスコミュニケーションの上ではできるだけ正確な日本語を使うようにしている。こうすることで老若男女、日本語がわかる外国人まで困らないようにするためだ。相手が分からない特殊語は使わない、これはビジネスマナーの範疇だと思うのだ。

特殊語のミスコミュニケーションリスク

おっさんビジネス用語に限らず、こうした特殊語を多用するリスクは話し手と受け手の間で認識の違いが大きくなる可能性があるためだ。

「一丁目一番地」「トッププライオリティ」はいずれも「最優先事項」という意味で使われるが、おっさんビジネス用語を知らない若者が「この件は一丁目一番地で進めてくれ」と言われても、最優先事項という取り扱いで進めてくれる保証はない。これは取引先についても同じことが言えるだろう。そうすると話し手は「優先してやってといったのにやってくれなかった」となるし、受け手は「理解できる言葉で指示してくれ」となってしまうだろう(自分自身も経験済)。

ビジネスにおいてコミュニケーションで差がつくのは「意図のグラデーションを読み取れるか?」にあると思っている。たとえば、話し手は立場上そのように言わざるをえないが、実際の本心・意図は別にあるといった「本音と建前」なんかはその代表的なものだろう。

相手の意図の濃淡を正確に読み取る力がある人ほど、利害関係者の心をつかんでビジネスを制すると考えているので、「相手は何をやってほしいのか?」をキャッチするセンサーは重要である。そのシグナルは通常、テキストか話し言葉から読み取る必要がある。話し手もできるだけ自分の意図を正確に読み取ってもらいたいと思うのが普通だ。それなのにそのシグナルが暗号化されていると、読み取り不備を起こしてしまう。

おっさんビジネス用語とは、自ら言葉を暗号化しミスコミュニケーションリスクを高めてしまうことになっていると感じる。

昨今、職場での多様性が叫ばれ、ビジネススピードも速まっている。そんな中でできる限り短い言葉で、情報量は多く正確にするビジネスコミュニケーション力は必須だ。おっさんビジネス用語が「ツーカーで伝わる時代(笑)」は終焉したと考え、標準語でのコミュニケーションへ切り替える時が来ているのではないだろうか。

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。