禅問答のような国会論戦:反撃能力も盾ですか?

今月1日に開かれた参議院予算委員会で、新年度予算案の実質的な審議が始まった。ここでは、以下の一点に絞ろう。

杉尾ひでや参議院議員Twitterより

立憲民主党の杉尾秀哉・参議院議員が、いわゆる「反撃能力」の保有をめぐり、こう質した。

これまでは、日本が『盾』で、アメリカが『矛』の役割分担だったが、今回の安全保障関連の3文書で明らかに変わるんですよ。(中略)アメリカと共同で対処するために、これまで持たないとされてきた『矛』の一部を日本が担う。(安保3文書には「変更はない」と書いてあるが)基本的な役割が変わるじゃないですか。

これに対して、岸田文雄総理大臣がこう答弁した。

今後は、アメリカの打撃力に完全に依存するということではなくなり、反撃能力の運用についても、他の個別の作戦分野と同様に、日米が協力して対処していく。このようになることは想定されます。反撃能力は、あくまでも国民の命や暮らしを守るためのものであり、あえて申し上げれば、『盾』のための能力であると認識しております。

上記引用部分で、読者の理解に供するため、「(安保3文書には「変わらない」と書いてあるが)」と補ったが、正確を期すべく、いわゆる安保3文書の一つである「国家安全保障戦略」の該当部分を引こう。

「日米の基本的な役割分担は今後も変更はないが、我が国が反撃能力を保有することに伴い、弾道ミサイル等の対処と同様に、日米が協力して対処していくこととする」

このとおり、岸田総理の答弁は、「国家安全保障戦略」の記述と、なんら矛盾しない。矛盾はしないが、同時に、素朴な疑問も禁じ得ない。矛と盾という「基本的な役割分担は今後も変更はない」が、今後は反撃能力の運用について「日米が協力して対処していく」…。

悪い意味での〝禅問答〞のようにも聞こえる。政府としては、どこまでを「基本的な役割分担」とするか、という線引きの問題なのかもしれないが、本当にそれでよいのか。

日米が協力して(「弾道ミサイル等の対処」や)「反撃能力の運用」に当たることを、言わば〝例外〞扱いし、「日米の基本的な役割分担は今後も変更はない」と言い張る姿は、どう見ても美しくない。いっそ正直に「今後は自衛隊が『矛』の役割を担う場面もあり得る」とでも答弁しては、どうか。

さらなる問題は後段の部分である。「反撃能力は、あくまでも国民の命や暮らしを守るためのものであり、あえて申し上げれば、『盾』のための能力」ときた。

ただの戯言なら、「座布団一枚」とでも言いたいところだが、この場は大喜利の舞台ではない。国権の最高機関たる国会、それも予算委員会での質疑である。

その場にふさわしく、真面目に議論すれば、どう贔屓目に聞いても、詭弁の類ではないか。いくら何でも、これはあるまい。これでは、「矛盾」という言葉を生んだ「韓非子」の故事も成立しない。

少なくとも、私はそう感じたが、どうやら私は少数派らしい。翌日の朝刊をみても、主要メディアが以上の発言を咎めた形跡がない。

質疑の中で、杉尾議員が「(敵基地攻撃能力に積極的になったのは)総裁選に勝つためか」などの邪推を重ねたから、さすがに進歩派メディアも引いたということなのだろうか。

もはや事情を詮索する気も起きないが、こうは言えよう。こんな答弁で許されるなら、ICBM(大陸間弾道ミサイル)も、長距離戦略爆撃機も、攻撃型空母も、みな「国民の命や暮らしを守るための盾」である。

こうも言えよう。こんな質疑で許されるなら、G20外相会合を抱えた多忙な外務大臣が出席する必要など、どこにもあるまい。げんに、この日はたった53秒しか答弁しなかった(日経新聞参照)。

林芳正外務大臣がG20欠席、外交より国会慣例 答弁は53秒のみ - 日本経済新聞
林芳正外相はインドで1日に開幕した20カ国・地域(G20)外相会合を欠席した。国会で予算案を審議する際、最初の「基本的質疑」は全閣僚が出席するとの慣例を優先した。主要7カ国(G7)議長国である日本の発信力は外相不在で低下する。日本の外相がG20会合に出ないのは2017年に定例開催となってから初めて。ロシアや中国もメンバ...

この日の予算委員会で、日本国は計り知れないものを失った。責任は与野党ともにある。