全人代を受けた中国の行方:中国は経済成長のパワーをなくしつつあるのか

中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)の行方を見て、習政権は共産党と国務院(政府)の一体化工作を進め、いよいよ習近平一強の盤石な体制を整えるという見方をしています。

第二十次全国代表大会での習近平国家主席 中国共产党新闻より

中国の政治の要所である中南海は北側の国務院と南側の共産党に分かれています。北側は北院と称し、南側は南院と言われます。今まで北院の主は李克強氏、南院は習近平氏という構図だったのですが、李克強氏の退任が確実視され、後任候補に李強氏の名前が挙がっています。この行方は近日中にはわかるものと思われます。李強氏は上海市党委員会書記から政治局員になっていますが、経済政策運営の経験はありません。経験ない人が北院のトップになれば、実際には習近平氏とお仲間ですので協業するかたちとなります。つまり、今後は北院と南院の緊張感が実質無くなるわけです。

習近平氏が経済に精通しているか、と言えば超甘口の私でさえ、「習氏は経済音痴」だと認識しています。そこに未経験者の李強氏が太鼓持ちとなれば音痴二人の珍道中になりかねないリスクがあります。ただ、見方を変えると、音痴というより習氏はそもそも西側諸国が目指す経済成長に興味がなく、イデオロギー主体の国家運営であり、その流れがより強まるとも言えます。ひょっとすると鄧小平氏の改革開放すら否定しかねない気がするのです。新しい国家資本主義を作るのでしょうか?

とはいえ激変はあらゆる意味で影響大ですので、経済政策は取り巻きが作業をしながら少しずつ転換していくのでしょう。ただ世界の投資家はそう見ないかもしれません。この国のリスクは何処にあるのか、何か起きた時、どうやって修復するのか、その道筋があるのか、ないのか、であります。党と政府が一体化するのはブレーキがない機関車のように見えないでしょうか?

中国が国を突然明けたことを踏まえ、一時中国投資ブームがありました。中国関係の株価が一斉に吹き上げたのです。私の手持ち中国関連株も瞬く間に2倍を超えましたが、売り時だと判断しています。つまり、宴であったとみています。李克強氏が今回提示した経済成長率目標は5.0%前後で事前予想の5.5-6.0%を大きく下回るものです。保守的に見たという報道が正しいのか、もともと下駄をはかせて、実勢より高い数字だったものを修正してより事実に近づけたものなのか、ここは判断しかねます。が、今回で退任が見込まれる李克強氏にとっては当然、この数字の発表には思惑があったのだろうと思います。

その印象である「低い!」、つまり中国が既に経済成長のパワーをなくしつつあるのか、という疑念は挟まざるを得なくなります。14億の民がいる国で5%の経済成長しか達成できないのは海外での稼ぎが細るという意味です。成長が著しい国家のGDPは7-10%前後を維持しなくては先進国レベルにキャッチアップ出来ません。が、思った以上に早く中国経済は収れんに向かっているようです。過去の例からすると中国は「中進国の罠」にはまる公算が高くなります。

「中国はアメリカのGDPをいつか追い抜く」という話はずいぶん昔から時折、聞こえてきていたのですが、私はこの可能性はかなり低いのではないか、とみています。まだじっくり考察を進めていないのですが、中国の場合、一人っ子政策による人口減が今後、確実にボディブローのように効いてくるうえ、高齢化社会を迎えつつあるにもかかわらず同国では社会保障制度が拡充していません。となれば、中国の政策主体は国内政策に注力せざるを得なくなるはずです。また、共産党の目指すものは「金持ち国家」ではないはずで、中国の民間企業で力をつけたところは潰す、つまり日本的な「出る杭はうたれる」ことになるとみています。

一方、イデオロギーがより前面に出てくるならばアメリカはより対決姿勢を見せるでしょう。個人的にはアメリカはやや過剰反応的なところも感じます。テレビニュースでアメリカの委員会などの様子を見ると中国たたきは一種の議員のアピールの手段となっているきらいすら感じる時があります。当面は新しい外交チームがどう動くか、確認する必要がありそうです。

最後に中国のロシアとの関係が今一つはっきりしない気がします。中国がしたたかさを見せているようにも感じます。ロシアを部分的サポートしながらも表立っては中立的立場をとり、ウクライナの気も引いて戦後の取り込みの画策をしているようにも見えます。

中国は一部の指導層と民という仕切りが非常に明白で指導層次第でどちらにも転がるわけで新指導層と実務層の人事は要注目だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月9日の記事より転載させていただきました。