文科省は、過去に岡山県の高校で監督から叱責された後に野球部員が自殺したことの問題などを踏まえ、2022年度のいじめ・自殺に関する調査に、「教職員の不適切指導」という項目を新たに設けることにしました。
「教職員の不適切指導」…文科省がいじめ、自殺調査で項目を新設 操山高校自殺問題を受け
確かに生徒の遺族が、自殺の真相究明や再発防止のため、実態に即した回答ができるように調査の見直しを要求することは心情的に十分理解できるところですが、項目を新設することについては危惧される点もあります。
「体罰」は具体的物理的行為がわかりやすいと思いますが、「不適切指導」はかなり抽象的な表現であり、何をもって「不適切」なのか明確な基準が定めづらく、時に主観や人間関係・環境などに左右され、公正さを欠いてしまう恐れもあるからです。
また大規模調査の実施は、事故・事件発生後や定期的に行われることが多く、最も重要な命に関わる緊急性のあるケースにおいて、果たして事件の未然防止にどのくらい効果があるのかも疑問です。
そもそも文科省は、調査は頻繁に行うものの、何ヶ月もたってから集計・分析結果を発表するの常ですし、何かするにしても殆どが紙面・報道(会見)を通した指示・指導に留まっており、とても学校現場の実態に即応しているとは言い難い状況です。
そんな文科省の動きに対し、教育問題に取り組むフリージャーナリストの前屋氏も苦言を呈しています。
自分たちは職場にどっかり腰を下ろしたまま、もっともらしい抽象論を語り、その具現化を学校現場に丸投げするばかりでは、到底良い効果をもたらすとは思えません。
直接生徒指導に携わってきた教員の一人として筆者が言えることは、学校現場ではマニュアル通りではなく、極めて複雑で一筋縄ではいかないようなケースが日々発生しているということです。
現場の教員には事件・事故の未然防止とともに、不幸にも発生してしまった後の迅速かつ的確な判断力・行動力が求められており、すでに高いスキルを身に着けている教員も一定割合います。失礼ながら現場を見ていない方から「ああしろ、こうしろ」と指示されることで、かえって解決の妨げや遅れになる恐れもあるのです。
筆者は長らく生徒指導に関わってきたこともあり、これまで直接対処した問題行動・トラブルは一千件を超えていますが、その何割かはいじめ、あるいはいじめ的要素が絡んでいました。
手前味噌になってしまいますが、この数多くの実践経験が、当事者間でいじめを解決するためのヒントになるのではないかと考え、数年前に具体的事例と対処法を盛り込んだ書籍を出版しました。
「いじめ問題」に限ったことではありませんが、文科省は教育委員会や学校に一方的に指図するのではなく、もっと現場の当事者(児童生徒・教員・保護者)のリアルな声に耳を傾け、実態をよく把握し上で、学校をサポートする側に回るべきだと思うのです。
例えば教員の増員、生徒指導経験豊富な教員OBや心理カウンセラーの配置、監視カメラの設置など、大きな財源と教育行政権を持つ文科省だからこそできるのではないでしょうか。
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