中小企業がLVMH、KERING傘下ブランドと直接取引? (正面 雄一郎)

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センスという名の「付加価値」とは?

LVMH、KERINGの様なメガ企業相手に日本の中小企業が直接取引出来るのか?と質問が飛んできそうですが……。日本の中小企業がLVMH、KERING傘下の海外企業と取引をしている例は沢山あるのです。

私の会社は2016年に始まった従業員7名のスタートアップ企業。海外高級ブランドの洋服になる生地のデザイン・製造をしており、ファッション業界では憧れの存在であるパリコレ、ミラノコレクションのFASHION SHOWに使用される洋服から既製服まで、フランス、イタリア大手のブランドから依頼された生地をデザイン、製造し、輸出しています。輸出比率は売上の50%を超えます。

わざわざ何故、フランス、イタリア大手ブランドが私たちに仕事を依頼するのか?

単純に彼らの自国では製造出来ないノウハウがあるからなのです。世界の名だたるファッションブランドとなると生地も高級でスペシャルでなければいけない。そのニーズに対し、フランス、イタリア現地まで足を運び、現地でデザイナーさんに依頼された生地、トレンドを先取りして作った生地をプレゼンします。それらを日本で製造し、輸出する、というシンプルな流れなのです。

一度、二度のラッキーパンチで取引出来たのでは?という質問が飛んできそうですね。では何故継続してお仕事を頂けるのか? シード選手になれるのか?

今までの取引実績、ヨーロッパマーケットでの名声は当然必要なのですが、言葉で一番説明が難しい、所謂「センス」への特化なのです。

製造業なので「これをズバリ作ってくれ」という依頼も沢山ありますが、高級ブランドが「あ!これこれ!こういうものが欲しかったの!ずっと探してた!」と言いたくなるもの。

要は隙間を狙って物作りを行う事、この「隙間」が「センス」なのです。センスを認められれば「そうだね、今回も彼らにお願いしよう」と毎回お話が来る。シード選手として毎シーズンお仕事を頂戴出来るのです。

LVMH, KERING傘下の高級ブランドは、洋服の素材調達において世界に情報網を持っているので競争の激しい世界ではありますが、抜きん出るセンスで勝てれば中小企業でも十分取引が可能という事なのです。当然コミュニケーションの能力は相応に問われますが。

Appleが展開するiPhoneにも様々な日本製の部品が使われている様に、日本の技術は凄いのです。しかしそれらをしっかり理解してもらい、海外の大きな企業と長期的な関係性を作る事が一番難易度の高いことでしょう。

最近では官民で台湾大手TMSCの半導体工場を熊本県に誘致し、日本での物作りの可能性の扉が新たに開かれた明るい話題がありましたね。

規模は違えど、私たちも世界の高級ブランドが日本の工場で生地を作り続ける、この未来を創っていくプレイヤーとしてあり続けたいと思っています。そのためには「センス」を磨き続けなければと、日々奮闘中です。

「センス」という付加価値を自身が創り出す製品にどれだけ付け加えていけるかが、今後世界で活躍する企業として生き残れるかのポイントとなるでしょう。

正面 雄一郎 株式会社BVLAK 代表取締役
12歳~23歳までイギリスで過ごす。2000年に現地の大学を卒業後日本へ帰国。帰国後はイギリスの高校・大学に在学中から行っていた音楽プロデュース等を行う。30歳で音楽の世界からファッション業界へ転身。老舗生地メーカー3社で海外営業部を立ち上げ、各社でマネージャー等を務める。2016年に生地メーカー・BVLAKを起業。現在は欧州の高級ファッションブランドと直接取引を行い、製造・デザインした素材が毎シーズン、パリ/ミラノコレクションで使用されている。URL https://bvlak.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年3月12日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。