きのう国会で、総務省の漏洩文書についての集中審議が行われた。マスコミでは総務省の説明を真に受けて「2015年2月13日の大臣レクはあった可能性が高い」と書いているが、総務省の答は正確には次の動画の通りである。
【小西文書】
福山哲郎「2/13のレクはあったのか」
総務省「作成者は『”記憶は定かではないが”文書があるなら、同時期に放送法に関するレクは行われたの”ではないか”』と認識。一方、同席者の認識は必ずしも一致していない。以上を勘案すると2/13に放送法関係のレクがあった可能性が高い」
はぁ!?😩 pic.twitter.com/BSN5Sz2L6e
— ピーチ太郎3rd (@PeachTjapan3) March 13, 2023
作成者が他人事のように推測する不自然さ
このやり取りを書き起こすと、次のようになる。
福山哲郎(立民党):(2月13日の)大臣レクがあったかもしれないという話が、けさ飛び込んでまいりました。今の現状について答えてください。
小笠原情報流通行政局長:作成者(西潟課長補佐?)によりますと「約8年前のことでもあり、記憶は定かではないが、日ごろ確実な仕事を心がけているので、上司の関与を経てこのような文書が残っているのであれば、同時期に放送法に関する大臣レクが行われたのではないかと認識している」ということでありました。
一方、当該文書に記載されました同席者(安藤局長・長塩課長)の間では、同時期はNHK予算国会提出前の時期であり高市大臣に対し放送部局のレクが行われたことはあったかもしれないが、個々のレクの日付内容まで覚えていないとするものがあり、必ずしも一致していない部分がございます。
以上を勘案いたしますと、2月13日に関係の大臣レクがあった可能性が高いと考えられます。
「可能性が高い」というのは小笠原局長の評価であって、当事者の話ではない。作成者は書いた記憶があれば「私が書いた」と答えるはずだが、「大臣レクが行われたのではないか」と、他人事のように推測している。これは不自然である。
8年前で記憶が定かでないといっても、たとえば私が8年前に書いたブログ記事を見せられて、「これはあなたの書いた記事か」と聞かれたら、ためらいなく「そうだ」と答える。内容を細かく覚えていなくても、自分が書いたかどうかはわかるはずだ。
ところがこの作成者は「記憶は定かではないが」と逃げを打ち、「上司の関与」で文書が書かれたとほのめかしている。これは上司が文書を改竄したか、上司の命令で議事録を作文した可能性を示す。レクに立ち会ったかどうかも明言していない。
8年前なら、役所のスケジュール管理はイントラネットでやっていたはずだ。大臣の日程は過密なので、秘書が分刻みで管理し、記録している。それを見れば、2015年2月13日の15:45~16:00の間、大臣が何をしていたかはすぐわかるはずだ。それを証拠として出せば(内容はどうであれ)レクが行われたこと自体は確認できるはずだ。
ところが今まで1週間も調査しながら、総務省は大臣の日程表を出していない。高市氏は「大臣の日程表は1年たったら破棄される」というが、6人の関係者のメールなどをことごとく消すことはできない。この時刻にレクがあったかなかったかを示すのは容易である(私でもわかる)。ここから逆に考えると、少なくとも2月13日15:45には、大臣レクはなかったと推定できる。
礒崎補佐官に対する架空の「高市コメント」
レクがあったかなかったかは本質的な問題ではない。重要なのは、その議事録の内容が高市氏の記憶と大きく食い違っていることだ。これは桜井総務審議官以下の旧郵政省の官僚には配布されているが、当の大臣にも大臣室にも配布されていない。
ここには「そもそもテレビ朝日に公平な番組なんてある?」とか「苦しくない答弁の形にするか、それとも民放相手に徹底抗戦するか」などの大臣の言葉があるが、高市氏はきのうの答弁でも、こうした言葉を全面的に否定した。
特に重要なのは、高市氏が礒崎補佐官の要求を今回の騒動が起こるまで知らなかったことだ。2月13日の大臣レクは、その4日後に予定されていた礒崎補佐官へのレクを前にした作戦会議で、礒崎氏から「本件を総理に説明し、国会で質問するかどうかについて総務相の指示を仰ぎたい」という話があった。
17日には、安藤局長が礒崎補佐官に「極端な事例をあげるのは(答弁として)苦しいのではないか」という高市総務相のコメントを伝え、礒崎氏が特定の番組(サンデーモーニング)を名指しせず、質問で例示する程度にとどめるという方向を決めている。
ところが高市氏は、こういう経緯をまったく知らず、今回初めて見たというのだ。これが彼女の勘違いや嘘である可能性もゼロではないが、大臣室の2人(参事官と秘書官)も同じ認識だという。議員辞職を賭けて、そんな嘘をつく合理的な理由がない。
作成者を国会に呼んで事実関係を確認せよ
総務省の事務方は、なぜ大臣に礒崎氏の件を話さなかったのか。これは私の推測だが、高市氏は礒崎氏と同じく安倍側近であり、当時は「安倍一強」といわれた時期だった。2人の意見が特定の番組を名指しで批判すべきだということで一致すると、「民放相手に徹底抗戦」になってしまう。
そのため高市氏には知らせないで架空レクをやったことにして、「一つの番組を名指しするのは答弁として苦しい」という慎重派の意見を、高市氏のコメントとして礒崎氏に伝えたのではないか。礒崎氏も、この高市氏の対応に感謝して「上品にやる」と矛を収めた。
その点で2月13日の架空レクは、暴れる礒崎補佐官をなだめる有効な武器だった。その後も、事務方は高市氏に礒崎氏の件をまったく知らせないで、5月に答弁させた。それだけ高市氏が事務方に信用されてなかったわけだ。
今のところ放送法の大臣レクが、この時期にあった可能性は低い。事実を全面否定する高市氏に対して、総務省が何も具体的な証拠を出していないからだ。高市大臣を蚊帳の外に置いて、事務方が大臣答弁を勝手につくったことになる。
こんなことが日常的に行われているとすれば、霞ヶ関の意思決定システムの欠陥を示す事件である。この議事録が虚偽であれば、虚偽公文書作成罪に問われる(総務省は告発義務を負う)。作成者(総務省職員)を国会に呼んで、事実関係を確認すべきだ。