学校のタブレット授業は失敗だと思う

黒坂岳央です。

間もなく自身の子供が小学生に上がるタイミングが到来する。伴い、教育機関から送られてくる資料を見ていたのだが、タブレット導入に積極的であるようだ。「ビジュアルでわかりやすい」「ITスキルも一緒に伸びる」といった華々しいメリットが全面に押し出されているが、正直いって筆者はタブレット授業の効果にはかなり懐疑的である。

本稿は統計データを用いながらも、あくまで個人的見解に基づくタブレット導入による学習効果を論じる記事となっているいることを理解した上で読み進めていただきたい。

recep-bg/iStock

ICT教育は成績が下がる

まず理解しておくべきは「ICT教育(アナログではなくデジタル機器を用いた授業)で成績が向上する信用のおけるエビデンスはない」ということである。

OECDが2015年に実施した「学習到達度調査(PISA)」によると72か国・地域から約54万人の影響度を調査したデータがある。結論的に、「ICT教育は成績向上に影響が見られなかった」「学校でコンピュータを使う時間が長いほど、成績が良くなかった」となっている。

この調査が絶対正義!と統計データを振りかざすつもりはない。だが、実際の教育現場から漏れ出る、タブレットを用いた授業での苦労話を聞くだけでも、うまくいっていないおおよそ検討がついてしまう。「手を動かさず選択肢から選ぶので頭に残らない」「レポートはコピペばかりで自分で書いてこない」といった話だ。

勉強は自分の思考をめぐらし、計算問題や漢字の暗記、文章執筆は実際に手を動かす必要がある。タブレットになると、思考の意識的コミットメントも削がれてしまい、視力が大きく低下する上にそもそも情報の視野性や閲覧性が紙に大きく劣るなど、従来のアナログ学習には起きなかった新たな問題も引き起こす。

タブレットではITスキルは身につかない

総務省は「ICTでITリテラシーを高めよう」と掲げている。だが、タブレットでITリテラシーが向上するとはまったく思えない。

ITリテラシー向上に必要なのは文章なり、音楽なり、音楽なりをクリエイトしたり、インタラクティブな知的コミュニケーションであるはずだ。PCではこれらが可能だが、タブレットは違う。端的にいってタブレットは単なる大きなスマホのようなものに過ぎず、確かにクリエイティブな作業をやろうと思えばできなくはないが基本的には「映像や音楽の受信機」に近い性質だ。

より具体的に言えばタブレットにITサービスの消費者を作る力はあっても、優れたクリエイターを作る力はないのだ。タブレット授業をしても日本からは次世代GAFAは生まれず、今後も消費者に甘んじる状況を変える力など望むべくもないだろう。

タブレット活用よるITリテラシー向上で、プロのクリエイターやIT分野に明るい人物が育成できると筆者には思えない。今、学生の子達が社会に出て働くなら、仕事で使用するのはタブレットやスマホではなくPCである。筆者は文章作成、画像デザイン、動画編集を仕事で使うが、そのすべてを複数台のPCで処理する。タブレットもスマホも最新デバイスをいくつも持っているが、これらはインターフェース面で使いにくい上に処理能力の面でPCの代わりには全くならないという感覚がある。

タップができてもキーボード入力ができない。ストレージ容量だけは分かっても、CPUやメモリ、GPUについての知識や感覚がない。ワードやエクセルは使ったことがない。単なる大きいスマホに近いデバイスを使う経験が、本当に子供の将来的なITリテラシー向上に意味があるのだろうか?下手をしたら勉強そっちのけでタブレットで遊んでばかりとか、SNSに不用意に問題投稿をして炎上したりしないだろうか?

義務教育ではあえてアナログで行くべきだと思っている。進学校や難関大予備校でデジタル化をして大きく成績を伸ばした!といった状況証拠があれば分からなくもないが、そんな話は全然聞かない。状況証拠がこそが明確な答えだ。タブレットを導入して逆に子供の教育がじゃまされないか?と危惧してしまう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。