3月16日のNature誌に「GPT-4 is here: what scientists think」というタイトルのニュースが掲載されている。最近、ChatGPTがすごいとこのブログに書いたが、3月14日にそれをアップグレードしたGPT4がリリースされた。
GPT4は画像処理も可能だと言う。かつて、人工知能は、囲碁、将棋、チェスなどでは人間に勝てないと言われたが、アッと言う前にそれが可能となった。今は、人工知能がわれわれの生活のあらゆる場面で影響を与えようとしている。
映画スタートレックで宇宙船と地上間で、携帯電話でやり取りをしている姿を見て、それは空想の世界だと思っていたが、今や、スマートフォンで普通に日常生活で利用されている。体外からセンサーで診断している場面もあったが、10年もすれば、それが医療現場で広がっている可能性も否定できない。
しかし、新しい技術が生まれた時には、社会はその適切な利用を考えていく必要がある。日本では人工知能に対する評価も、それを広く社会で利用された場合のルールの検討も遅れている。今、社会を動かしている人たちが人工知能を他人事と捉えているのだから、人工知能技術の社会へのインパクトやその課題を考えることができなくて当然なのだ。医療現場でのAI利用が急速に進んでいるが、この国はどうなるのだろうと心配だ。
人工知能ほど高度ではないが、日本でも無責任に行われているゲノム情報を利用した病気のリスク診断を、3月16日米国の臨床遺伝学・ゲノム学グループが推奨しないとのコメントを出した。日本では野放しだが、ゲノムを正しく理解している政治家や官僚がほとんどいないのだから仕方がない。学者も自分の領域のことばかり主張しているので救いようがない(私もその一人かも知れないが?)。
人工知能が自立的に考え、人工知能ロボットを作り、社会を支配していくというストーリーもSFではなくなり、現実の問題として考えるべき時点に立っているのだが、「今後検討して・・・・・」という無責任な先送りをして、日本のガラパゴス化を進めている。
「ビッグデータを集めて、それらを解析して・・・・」と私も語っていたが、日本の歩みは遅すぎる。過去数十年繰り返してきた「Too Small, Too Late」「焼け石に水」状態が続く。目先の綻びを取り繕うことに追われて、この数十年の間に、世界から大きく取り残されてきたが、その現状認識さえできていないから始末に悪い。
みんなが平等にと言っている間に、みんなで地盤沈下していっている。日本の国民一人当たりのGDPの国際順位は急速に落ちていき、2021年度はOECD諸国38か国中20位にまで低下し、世界に占める国全体のGDPは約5%と約20年の間に半分になっている。
日本にあるのは人的資源だけといっても過言ではない。その人的資源をうまく生かす仕組みが壊れている。大学や研究所は人員削減で疲弊している。国に守られて緊張感に欠けていたのも問題だったが、今は、絞られて水滴一滴も出てこない状況だ。大学や研究機関が息を吹きかえすような大胆な資源投資が必要だと思うのは私だけか?
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。