田原総一朗です。
今年も3月11日がやってきた。東日本大震災から12年である。命を落とされた方々、ご遺族の方々……。何年経とうと、その無念はいかばかりだろう。あらためてご冥福をお祈りします。
そして、東京電力福島第一原子力発電所の事故は、大きな恐怖と衝撃国民に与えた。今もなお多くの人々が、以前の生活を取り戻せていない。僕が司会を務める「朝まで生テレビ!」では、大震災以来、毎年2月末の放送回で、震災処理や復興、原発問題などを討論してきた。
今年も原発問題について話し合ったが、これまでの11回とは決定的に違う背景があった。事故以来、日本政府は一貫して、「原発への依存は可能な限り低減する」という姿勢を示してきた。岸田首相が総裁選に出馬した際も、原発に対して慎重姿勢だった。
ところが2022年8月、岸田首相は突然、「原発を最大限活用する」と大きく舵を切ったのだ。「脱炭素」という課題もあるが、大転換の大きな要因は、長引くロシアとウクライナの戦争だろう。
世界的なエネルギー危機によって、電気料は上がり、国民の大きな負担となっている。しかし、だからと言って、国民への丁寧な説明もなく、国会での議論さえもなかった。
なし崩しに原発再稼働を進めることは、断じてあってはらならないと思う。福島の教訓は生かされているのだろうか。「朝生」では、福島第一原発の現状を、テレビ朝日記者の吉野実さんに話してもらった。吉野さんは事故以来、地道に原発取材を続けている方だ。
吉野さんの話に、僕はあらためて衝撃を受けた。使用済み核燃料は1007体がそのまま、融け落ちた核燃料である「デブリ」880トンは、取り出しのメドが立っていない。そして廃棄物780万トンは、処理の見通しさえないのだ。
当初、国は、事故の収束費用を5兆円としていたが、まったく足りず、約2倍の11兆円になり、現在22兆円に膨れ上がっている。ただし、廃棄物処理の費用は、この予算に含まれておらず、22兆円でも足りない可能性が高い。
事故処理が終わるまでに、いったいいくらかかるのか。そして前回も書いたが、そもそも日本には、フィンランドの「オンカロ」のような核廃棄物の処理場さえないのだ。
福島の事故処理は、まったく終わっておらず、多額の費用がかかるうえに困難を極めている。こうした現状があるのに、いったいなぜ政府は「原発推進」へ180度の転換をしようというのか。
原発というのは、一旦事故が起きたら、多くの人々に取り返しのつかない影響を与え、また莫大な費用がかかる。だから、原発事故は、保険会社もカバーしていない。それだけリスキーな発電手段ということだ。
「朝生」で、大塚耕平参議院議員はこう語った。
アメリカの原子力についての法律は、『原子力は国が責任を持つ』と主語がはっきりしている。しかし日本の原子力基本法は、主語がはっきりしない。
つまり責任を持つのが、国なのか、事業者なのか明確でないのだ。しかし、福島の事故で明らかになったように、原発の責任は、一事業者が背負いきれるものではない。国が責任を持つべきだ。その覚悟が政府にはあるのか。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2023年3月17日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。