中国の習近平国家主席のロシア公式訪問は22日、3日間の日程を終えて終了した。前日の21日、習近平主席とロシアのプーチン大統領はクレムリンでの正式な会談の後、「包括的な戦略的パートナーシップと協力」を2030年まで拡大するため、2つの主要な協定に署名した。ロシアの国営テレビは21日、クレムリンでの調印式を放映した。
習主席はプーチン大統領との「建設的な会談」を称賛し、ロシアとの貿易・経済協力の拡大を歓迎した。一方、プーチン大統領は習近平主席に石油とガスの信頼できる供給を約束する一方、原子力発電所への支援を約束している。同大統領はまた、中国により多くのガスを送り込むパイプライン「シベリア2」の建設について話したことを明らかにした。プーチン大統領によると、ロシアは2030年までに、ガス供給量を年間約1000億立方メートルに増加し、さらに1億トンの液体ガスだけでなく、石炭と核燃料も供給する予定だという。
なおプーチン大統領によれば、中国とロシア間の貿易総額は昨年、約1900億ドル(1770億ユーロ)で新記録に達した。今年は、その価値が2000億ドルを超えると予想されているという。プーチン大統領は、「ロシアに対する西側の制裁の圧力にもかかわらず、貿易は増加している。ロシアは中国に農産物を供給する準備もできている」と述べている。
プーチン大統領は、国際刑事裁判所(ICC)が17日、ウクライナの児童を強制拉致したなどの容疑で戦争犯罪人として逮捕状を発令した直後だったので、久しぶりの要人をクレムリンに迎えて気分を一新できたのではないか。習近平主席の傍で終始笑顔をみせるプーチン氏の顔がロシアのテレビ放送に映っていた。一方、習近平主席は3期目の最初の外遊先として隣国ロシアを訪問し、ウクライナ戦争で苦戦するプーチン氏に連帯の手を指し伸ばすという役割を果たす一方、ウクライナ和平のための中国発「12項目の提案」を世界に向かってアピールした。プーチン大統領は、中国のウクライナの和平イニシアチブを「交渉の一部であり、非常に生産的だ」と評している。互いにエールを交換したわけだ。
中露関係は緊密化してきたことは間違いないが、ウクライナ戦争でのスタンスでやはり違いがみられる。オーストリア国営放送の外報論説委員長のペーター・フリッツ氏は21日夜のニュース番組で、「プーチン氏は中国国営メディアに寄稿した中で、中国は世界を支配する欧米諸国との戦いの重要な同盟国と表現していたが、習近平主席はロシアとメディアへの寄稿では、<中露関係を同じ価値を有する戦略的パートナー>と定義し、<西側世界と戦う反西側同盟>といったフレームは見当たらなかった」という。
すなわち、中国はロシアを支援するが、欧米を敵に回すといった考えはないのだ。自国の国民経済の発展のためには欧米諸国市場が不可欠だからだ。ウクライナ戦争では中国はロシアを支持し、その戦争犯罪を批判することはないが、ウクライナ、そしてそれを支援する欧米諸国を敵に回したいとは考えてない。戦争が終わり、ウクライナ復興が主要アジェンダとなった時、中国は表に出てくるだろう。いずれにしても、中国はウクライナ戦争でも常に受益国という立場をキープするために腐心しているわけだ。
中国が恐れるシナリオはプーチン氏が失脚し、ゴルバチョフ氏のような親西側派の後継者がクレムリンに出てくることだ。だから、中国はプーチン氏を支持し続ける。ただ、習近平主席は対露関係ではプーチン大統領の「反米同盟」といった政治的、イデオロギー的な同盟関係ではなく、可能な限り、実務的な関係を維持したい意向が強いとみて間違いがないだろう。
ロシアは原油、天然ガスの欧米市場へのアクセスを失ったが、その代わりに、インド向けとともに中国向けの輸出が増加している。中国はロシアが欧米企業から輸入してきた自動車、生活品、先端機材などをモスクワに輸出している。
欧州の経済専門家は、「中国はロシアをディスカウントのガソリンスタンドと見なしている」と述べている。国民経済を発展させるためにはエネルギー確保が急務だ。ウクライナ戦争で欧米諸国から制裁下にあるロシアの弱みに付け込み、中国側はこれまで以上に安価な天然ガス、原油をロシアから確保している。
習近平主席はプーチン大統領が年内に北京訪問するよう招請している。習近平主席は今年秋以後もプーチン氏がウクライナ戦争を主導して、クレムリンの主人であり続けると信じているのだ。
なお、米国国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は習近平主席のモスクワ訪問を「ロシアのプロパガンダをオウム返しにしているだけだ。戦争が終結するといった希望など与えていない」と指摘、「中国が建設的な役割を果たしたいのなら、ロシアにウクライナからの軍隊の撤退を促すべきだ」と批判している。正論だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。